ヒトヨタケ中毒記
菊池邦香


a [経緯]

1985年4月23日 我家で採れたヒトヨタケをたべる。

 調理法:サラダ油でいためた後、砂糖、醤油で調味した佃煮。うどんの具として煮込んだもの。
 食べた量:若い菌株(開いてないもので、裏が黒化していないもの)6〜7本位。
 味覚:くせがなく、滑らか。歯ざわり、歯ごたえともによく、ボリュームもあり美味である。
 臭い:無臭
 :ヒダ部分の黒化していないものでも調理すると、やや黒っぽくなり、特に汁が黒ずむ(老化したものは真黒になる)
 食後:前回までは恐る恐る食べ1〜2本で止めたためか何ら異常がかなった。そこでこの日は日本酒も2合ばかり飲んで見た。異常なし。

4月24日

 夜水泳に行き約1400m泳ぐ。帰宅後ビールを飲み、ヒトヨタケは食せず。顔が赤くなり(普段飲酒して赤くならない性質)、心臓が異常に高鳴り始めた。ビールをコップ2杯で止める。動悸が激しく、マラソンでもしてきたかのようになる。いつも水泳後にこのようになることはないので、「今日は調子が悪いのかな」と思い早めに就寝。残りのビールを妻も飲みやや赤くなる(やはり普段赤くならない性質)。
 ※妻も前日、同様にヒトヨタケを食すが、量は2〜3本であったろうか。子供らも1〜2本食べたが何ら変化なし。

4月25日

 朝何の異常もなく起床。いつも通り仕事。夜会議で東京に出張。ホテルで1泊、翌日までの予定。会議終了後、数人で大衆酒場にて飲酒。ビール1〜2本で再び赤くなり日本酒1本で心悸亢進、昨夜と同様の症状となる。ここで初めて「2日前のヒトヨタケ中毒か?」と思い当たる。ホテルに戻り、仲間同士仕上げのビールを飲んでいたが、眠さと心臓の鼓動の激しさでうたた寝。結局ダウン。個室に戻り、家に電話して妻の具合を問うて見ると、程度の差はあれ、同様の症状が現れたとのこと。まさしくヒトヨタケ中毒であろう。但し悪心、おう吐、下痢、頭痛、腹痛、幻覚症状など不快感はなかった。翌朝はケロリとしていつもと変わらず仕事ができる状態であった。以後症状無し。

[結論]

 ヒトヨタケと酒との中毒例としての報告はあるが、事実であることがわかった。但し、飲酒との関係について詳しくは記されていないので、体験による結果をまとめてみる。

  1. 少量の食用では症状はでない。
  2. 少量でも食べ続けると、中毒因子は蓄積されると思われる。
  3. 酒類(ビール、日本酒)と飲食には、その直後に症状が出るとは限らず、三日後まで影響がある。
  4. 症状はおおむね、心悸亢進、赤面、眠気などであり、その他特別な不快感(悪心、おう吐、下痢、腹痛、頭痛、幻覚症状など)は起こらない。
  5. 以上の結果より、ヒトヨタケを多食後、飲酒することは危険であると思われる

※ヒトヨタケ中毒については、他の詳細な報告を見ていないので、体験者があれば、その報告もぜひお聴きしたい所である。なお調理法、他の酒類との相乗効果に関し追試なさりたい方、ヒトヨタケを提供しますのでお申し出下さい。
※以前に山梨県清里にて採食したチョコダケ(アンズタケ属)と飲酒に関しても、軽度の異常例を体験しているが、鍋物に使って日本酒を飲んだ時であり、赤面だけの症状が発現し、以後三人に追試したが、いずれも同じ症状が現れた(飲酒後赤くならないタイプの人を対象とした)。

(1985.4.26)



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