キノコ雑談
北 薫


a  福島さんから菌学会フォーレーの参加の記事を書くように話があったが、思うような記事が書けないのでキノコ雑談と題してとりとめもないことを書いて会員としてのせめを果たしたいと思う。
 さて、私が菌学会に入会したのが昭和41年で、当時は会員も少なく会報は40ページたらずのうすいものだった。入会した動機は保育社の原色日本菌類図鑑に入っていた日本菌学会の入会のすすめであった。それから日本各地でおこなわれる採集会に観光旅行をかねて参加した。北は北海道、天塩川に沿う北海道でも北の果てに近い中川から、南は鹿児島、霧島のえびの高原まで、日本全国にまたがる採集会に出かけた。そしてさまざまなきのこに出会い、美しい自然に接することができた。特に印象深かったきのことの出会いについて、思い付くままに書くと、昭和43年群馬県霧積温泉で採集した朱色の大きいマスタケは色といい型といい素晴らしいものだった。それに、この温泉でマスタケのてんぷらがでたのも忘れられないものとなった。大山のブナの原生林で採集したヤマブシタケも忘れられないきのこだ。枯れたブナの幹にたれさがるように生えたきのこ、昔、使ったミノのようにたれさがっていた。毒きのこでるツキヨタケの群生も忘れることはできない。枯れかかったブナの木の幹にびっしりと生えたツキヨタケ、妙高山の雨の採集会での出会いであった。北海道では山道に沿ってコガネタケが列をなして生えていた。このきのこは割に寒くなってから出る事もあり、11月、霜のおりた群馬の南牧川の上流で化石採集に行ったとき、山道で見付けたこともあった。
 美しいきのこと言えば丹沢の採集会で出会ったベニチャワンタケ。昨年清澄の採集会のときにタマゴタケの群生に出会った。赤朱色の傘、そして、よこしま模様の黄色の柄、そのきのこがあちらこちらに群生している明るい木の下はおとぎ話の世界のようであった。
 北海道では、天塩川の上流でテングタケを見付けたが、傘の大きさが 20cm もある、内地では見られぬ大きなテングタケで忘れることができない。
 その他、十和田湖の採集会では、サンゴハリタケ、タモギタケ(黄色)、ハダイロガサが初めて見たきのこだった。
 最後に秩父産のきのこについて一言。秩父市の荒川に沿って長尾根と土地の人々が言っている丘陵があるが、この丘陵に発生するきのこでダイダイ色の美しいきのこがある。毎年発生するきのこではないらしく、私がよくでかけて探すのだが、このきのことの出会いは2〜3回しかなく、このところすっかり見られなくなっている。このきのこは「続原色日本菌類図鑑」PLATE 29図にあるハナガサイグチと同じものと思われ、清水大典先生が戦後まもなく報告されたもので、ト沢先生も昭和37年にこのきのこについて研究された。なお図鑑にのっているきのこの図は所沢に住む青木実先生のものである。おそらく秩父でとられたものであろうと思われる。秩父地方に古くからおこなわれている天狗祭というお祭りがあるが、この祭りの後、いわゆる天狗小屋の焼跡にいままで見た事のないきのこが群生しているのを見たことがある。このきのこは、たきびなどのあとに発生するきのこで、ヒトヨタケのなかまのヤケアトヒトヨタケであることが後でわかった。この他、ヤケノシメジ、ヤケアトツムタケなども焼跡を好んで発生するきのである。なぜ焼跡に発生するか興味のあるところである。



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