キノコの成分(2)
塩津 晋


 炭水化物にはいる前に前号の訂正と補足をさせていただきます。
 一つは、タンパク質の所の4頁下から2行目の、N含量からの算出値(食品分析表の値)に対して少ない値となり、1/2〜1/3となるきのこに……の所は1/2〜2/3の方が妥当かも知れません。
 もう一つは、栽培きのこは同種採集品よりタンパク含量で2倍位多い……の件ですが、これは勿論、窒素(N)分やグロスファクター等の多い糠やおからを使った菌床栽培の場合で原木栽培では変わらない筈です。

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3、炭水化物

 きのこの今日的意義は、この成分にあることを前号で予告しました。
 炭水化物は、通常のきのこ固形分の60〜80%を占め、この成分にきのこのきのこたる所以があるのです。それは炭水化物の中の大部分を占める食物繊維です。食物繊維はダイエタリーファイバー (Dietary Fibre 以下 DF と略) とも呼ばれ、昨今、にわかにその有用性が叫ばれていますので、先ず DF について少し述べます。それに DF の中の1つであり、特に癌やウイルス等の異物に大して攻撃的に働く免疫機構を高める多糖類についても触れることとします。

(1)食物繊維の効用

 DFとは、人の消化酵素によって消化されず、消化管を通じて何らかの生理作用を示す物質であると、理解してよいでしょう。
 では、どのような効用があるかを列記しますと次のようなものです。

 @便通の円滑化(大腸癌)
 A血糖の上昇抑制(糖尿病)
 Bコレステロール等の脂質の吸収抑制(胆石、脳、心筋動脈硬化)
 C発癌物質等の毒物の吸収抑制(各種の癌等)
 D栄養効率の抑制(肥満)

 Dは、ミネラルの吸収抑制と共に、場合によっては DF のマイナス面になります。

(2)食物繊維の種類

DF は、その物性、生理的特徴から2大別することができます。1つは、全く水に溶けないセルロース・ヘミセルロース・リグニン・キチン等の細胞壁を構成するものと、いわゆる細胞内多糖と呼ばれる、ネバネバ、ヌルヌルしたり、ゲルをつくるペクチン、寒天、ガム質やきのこなどに多い細胞内多糖 (ヘミセルロース、グリカン) 等で、水に溶ける傾向をもっているので可溶性 DF と呼ばれています。後者は腸内容物を増し便通を整える一般の DF の作用のほか、腸内細菌によって一部利用され、腸内腐敗を抑える等々の DF の典型的な働きの主流となっています。

(3)きのこの食物繊維含量

 女子栄養大の管原先生ほかによる30種のきのこの DF を測ったレポートがあり、それによりますと、平均して DF 総量は乾物中約40% です。内訳として可溶性 DF としてヘミセルロース、ペクチン様物質それぞれ22%、4%、不溶性 DF としてセルロース、リグニンそれぞれ12%、3% となっています。
 山菜の DF 総量、可溶性 DF 量がそれぞれ26%、10% とのことですので、いかにきのこの DF が多く、かつ、優れているかが削ります。さらにきのこには、プラスアルファの DF 効果として、後で述べます特徴的成分である糖アルコールの存在も見逃せません。
 ここで、DF 効果の典型的成分であります可溶性ヘミセルロースとペクチンの多いものに着目し、各 DF 成分を表に示します。なお、参考値として糖アルコール含量と可溶性繊維の少ない例を下段の方に対比させました。


食物繊維の種類別含量 (対乾物%)

可溶性DF 不溶性DF 糖アルコール
ヘミセルロース ペクチン様物質 セルロース リグニン マンニトール
アラビトールの計
シロキクラゲ 38.4 8.3 0 2.7 -------
キクラゲ(C) 34.8 5.0 10.4 5.3 0.6
ホウキタケ 27.6 5.0 8.8 3.8 10(M)
コウタケ 23.3 1.6 7.3 3.2 3.8
シイタケ(C) 27.1 1.3 16.1 1.6 12.8*
クリタケ 29.6 1.2 3.3 4.9 0.9
ヒラタケ(C) 27.8 6.1 11.6 2.0 7.5(M)
ナメコ(C) 22.9 8.3 11.7 4.7 0.2
タモギタケ(C) 24.5 3.3 17.6 1.6 3.0
エノキタケ(C) 24.2 1.0 11.4 1.9 14.3(A)
ショウゲンジ 20.2 9.1 11.0 2.1 0.5
ハツタケ 22.28 4.3 20.1 3.5 3.0
アミタケ 24.2 2.6 9.3 4.2 10.7
マイタケ 12.4 3.2 21.0 3.7 0.7
ツクリタケ(C) 13.0 3.6 11.1 1.2 10.3(M)
ムラサキシメジ 7.7 2.0 7.4 1.3 0.8
ホンシメジ 11.1 3.5 10.6 1.9 0.1

(C); 栽培もの (M); 主としてマンニトール (A); 主としてアラビトール *; 柄に23.3% 含まれる


a  この表から、私供が日頃から親しんでいるきのこは可溶性 DF が一般に多く、その中でもキクラゲ特にシロキクラゲが含量、割合共に高いのはうなずけます。反面、不溶性 DF の多いのはマイタケ、ハツタケで次いでタモギタケ、シイタケと言うのも、マイタケ、シイタケについてはうなずけるような気がします。味にも関与する糖アルコールの多いのは、タモギタケ、シイタケ、アミタケ、ツクリタケ、ホウキタケ、ヒラタケです。
 きのこの食べ方として、湯がくのは簡便、安全な手段ですが、次項のβ-1・3グルカンを含め可溶性 DF のかなりが溶出してしまいます。そしてきのこに多い糖アルコールや遊離の糖質は、水に長時間漬けただけで溶出してしまうことを念頭において下さい。従って、乾椎茸を水戻しする時は吸水する分だけの水を使うのが良い理屈です。

(4)免疫賦活性多糖類

 これは可溶性 DF の中に包含され、多くは熱水で抽出されるグルコースからなる多糖類ですから厳密にはヘミセルロースでなくグルカンと呼ばれるものです。今抗癌剤として治療に使われ、また使われようとしているのはどれもβ-1・6の分枝ををもったβ-1・3グルカンです。この種のグルカンは微生物の中でも特に広くきのこに分布し、実験移植腫瘍に対する効果の大小はでていますが、きのこ全般に複雑な免疫機能を支える働きがあり、その結果、体の恒常性(ホメオスタシス)を保つ役割の食品であると言えます。
 医薬品として、年、数百億円の売上げの商品名「クレスチン」(PS-K) は、カワラタケの菌糸体培養液中に生産されるβ-1・3 グルカンです。咋年から医薬として使用され始めたシイイタケの「レンチナン」と、発売準備注のスエヒロタケの「シゾフイラン」はそれぞれ属名から名付けられた多糖類で、20年位前から検討されて来ています。
 「クレスチン」は蛋白分岐をもっているため注射できず、経口剤です。従って、腸管から吸収されて体内を廻るのはごく一部でしょう。
 上記3種のβ-1・3 グルカンのほか実験腫瘍に有効性が認められているきのこは枚挙にいとまがありません。即ち、コフキサルノコシカケニマンネンタケ、ホウロクタケ、メシマコプ等の硬いきのこ、私供が日頃から賞味している、フクロタケ、エノキダケ、ヒラタケ、マツタケ、ナメコ、キクラゲ、マイタケ等の熱水抽出物も優れた抗腫瘍性を示しています。そしてこれらの機構から癌だけではなくウイルスや細菌に冒された場合でも人体にとって異物ですから有効性が期待されることは勿論です。
 健康な人の立場から見れば、日常から積極的な心身の活動と共に、薗食等の自然の食物を広く食卓にのせて、抵抗力のある本来の体質維持に努めることが肝要なことと言えます。切除もできない癌になってから薬として使っても、その機序から考えて、「時、既に遅し」の感を否めません。




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