きのことの出会い
上野広秋


a  今から、五〜六年前のある秋の事でした。渓流釣りの友人が訪れて「女房と、きのこを取ってきたから、少し食べて下さい。」と言って我が家に持って来てくれました。妻が小さなザルに、持って来ていただいたきのこを入れながら「もう夜だから明日の朝、料理しましょう。」と、なにげなくコップが伏せてある上にそのザルを置いて、その日は床につきました。
 翌朝、私は台所で水を飲もうとザルを持上げて吃驚仰天しました。「オイッ、コップが不潔だから虫がわいているゾ」「まさか…。おかしいわね。」と妻はコップとザルを交互に見て「きのこから虫がでているのよ、変なきのこをもらうから…。」「それじゃあ捨ててしまえ!」というわけで、我が家に初めて来た天然のきのこはくず入れに直行となりま した。
 早速友人に電話をしてきのこに虫がいる事を話しました所「天然のさのこには虫がいるから塩水で虫出しをして調理するんだよ。」と聞かされ、知らないという事は何とおかしな騒動を起こすものと、今でもあの時のことを思い出して時々妻にいわれてしまいます。
 きのこの会の方達もそうですが、渓流釣りをする人は山深く入って行きますので春は山菜、秋はきのこを見る事が多く、ある程度、釣りの方も一段落してきますとまわりの景色をながめ、きのこなどにも興味を覚えて来るものですが、毒きのこの見分け方が分らずにいるので、関心がありながら積極的になれませんでしたが、会社の若い人が実家のある寄居の山林を案内してくれたり、友人と那須の方へきのこ取りに行ったりと徐々に取ってくる様になりました。しかし家族はきのこに対し半信半疑で中々一緒には食べてくれません(もちろん、たいしたのはとれませんでした)。
 必然的にとって来たきのこをこしらえて、小さなナペに入れ煮てみたり、油いためにしたりして食べてみるわけです。「お父さん大丈夫?」と言いながら、妻が恐る味見をして くれるというくり返しでした。会の塩津さんに毒きのこの見分け方などを教わり、徐々にショウゲンジとかムラサキシメジ等を取ってくる様になると子供達の評価も変わってきました。「ウン、意外においしいね。」と言いながら喜んで食べる様になりました。昨今の自然食フームで子供もきのこに対する気持ちが変わって来たようです。
 一生懸命にとってきたきのこの保存方法もまだ勉強しなければなりません。腐らせた事も度重なりましたが、冷凍や乾燥したもの、又塩漬けにしたものが冷蔵庫に入る様になりました。お陰様で自然の恵みの天然きのこを一年を通して食べられるのは何とぜいたくな事と思います。



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