ヒゴノセイタカイグチ(Boletellus betula)
横山 元(浦和市)


a 97年8月7日まで猛暑続きだったのに急に涼しさを感じ始めた。マツタケ冷えである。平地では真夏でも富士山は8月頃から気温が下がり始め一足さきに初秋が訪れてくる。この頃、富士山の五合目付近のコメツガにマツタケが生え始める。7月下旬に福島の民宿でマツタケ(アカマツ林)を御馳走になり富士山のいつもの所が気になりだした。
夜になると富士山のキノコに詳しい友達に電話を入れている。マツタケは採れていなくっても富士山のキノコ情報を教えていただける。地面の湿り具合だけでもヒントになるのでキノコ観察に行く前に情報を得てから出かけることにしている。戻ったら挨拶がわりに出来るだけ状況報告する。キノコ愛好者にとって確実な情報ほどあり難いものはない。キノコ情報を交わしてているうちに坂本晴雄さんと富士山に行くことになった。
道路の渋滞を避け早朝出発。富士山に7時頃着き例によっていつもの所を数ヵ所覗いて見たがマツタケが生えていない。他の人が入った形跡もなく納得。昼まで富士山で観察したり写真を撮ったり行きつけのおいしい手打ちソバを食べ午前は終わった。
午後から富士山周辺の観察になり、標高800m位の雑木林。林相は埼玉県の雑木林と同じでアカマツとコナラや他の雑木が混ざって生えている。はじめにベニイグチ数本づつ生えているのを見つけ、すぐそばにセイタカイグチが同じように約40本見られた。ベニイグチ、セイタカイグチ、モエギアミアシイグチはいつも三点セット生えていることが多い。ベニイグチ、セイタカイグチが生えていたのだからモエギアミアシイグチも必ず生えている。などと言いながら探していると見慣ないイグチを見つけた。そばに生えているセイタカイグチより背がたかくカサは赤褐色、管孔は真黄色で柄は長く深い編み目模様で黄金のように輝いていた。私はセイタカイグチが古くなりカビにとりつかれているかのように見えた。でもルーペで見るとカビではない。
埼玉県立自然史博物館で菌類の標本を長年がけている坂本晴雄さんも手持ちの図鑑を検索していたがそれらしきイグチは載っていなかった。写真を撮り、帰り道に採取することにした。さらに進んでもベニイグチ、セイタカイグチのみでモエギアミアシイグチは最後までみつけることが出来なかった。帰り道さきほどの黄金のように輝いているイグチをもう一本見つけ計二本採取した。
うす暗いホテル?(何と二人で1,000円)の裸電球のしたで標本屋の坂本さんが図鑑を検索している。12時まで山あいの赤提灯のママのお酌で飲んできて今は朝2時だ。真夏だというのに寒くて眠れない。持ってきた着替えや雨合羽まで着込んだが寒さに耐えきれず車に乗り移り暖房をいれ夜明けを待つ。その日はもうキノコ観察ところではなかった。睡眠不足に飲み疲れで帰宅途中の山々はご挨拶程度に見回り帰ってきた。
数日後、坂本さんからヒゴノセイタカイグチらしいから至急、標本をキノコ研究家の高橋春樹さんに送って見ていただくよう指示があった。九州のきのこ(熊本日日新聞社)原色きのこ図鑑(北隆館)に写真と絵が載っているというので急いで見てみた。写真の方はそれなりに見えたが、絵の方は採取したものと全然違うように思えた。標本を送るにしても自然乾燥させたので形も色も変わってしまっている。おまけに嵩張らないように30kgの重みをかけ押し葉状になった、こんなキノコをお送りし申し訳ないと思いつつ高橋春樹さんにお送りし見ていだく事になった。
高橋春樹さんからすぐにうれしいご返事をいただいた。横山さん、おめでとうございます。お送り下さいましたイグチはヒゴノセイタカイグチに間違いございません。ニオウシメジ発見以来の快挙です。と言うお褒めの言葉に天にものぼるほど感激し坂本さんに連絡した。
後日、頂いたヒゴノセイタカイグチの資料(翻訳あり)が私達が偶然出会ったヒゴノセイタカイグチそのままだったことに改めて感心いたしました。ヒゴノセイタカイグチは1983年7月4日に熊本市の農林水産省林業試験場九州支場実験林のコジイ林で採取され本郷次雄博士により同定されております。はじめ北米東海岸で発見され現在では中国、日本に分布することが知られる珍種です。
今回、大量のヒゴノセイタカイグチを観察し他の菌類同様に個体差があるのに改めて知らされました。今までに国内で出版されていた写真、図鑑類も参考になりましたが、日本国内外のキノコをしる経験豊かな方に指導していただくのがキノコを知る早道だと実感いたしました。
富士山にマツタケが生えていなかったことがヒゴノセイタカイグチの幸運にむすびついたこと、標本整理に精通していた坂本晴雄さんが同行していたこと、イグチ類を研究されていた高橋春樹さんの常日頃のご指導があったからこそ、すてきなヒゴノセイタカイグチにめぐりあいたのだと確信しております。
また、10月4日に千葉菌類談話会の観察会にお見えになられました本郷次雄先生からヒゴノセイタカイグチについて貴重なおはなしをお聞きすることができました。先生はヒゴノセイタカイグチの発生数の多いのに驚かれているご様子でした。
関係者の皆様、御世話になりました。来シーズンもよろしくご指導下さいますようお願いいたします。

観察したヒゴノセイタカイグチ場所  山梨県
月日 本数 カサ径 柄の長 柄の径
1997 (本) (cm) (cm) (mm)
8-08 2 4-5 15-16 12
8-15 50 3-8 10-26 20
9-09 20 3-5 8-11 10



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