ウラグロニガイグチのあぶない料理法
秋山恭子(横瀬町)


a  ウラグロニガイグチ:目立たない、どう見てもおいしそうなキノコには見えない。しかしよくよく見れば粋な装いと言えなくもない。 若い時期のものは管孔の色も黒くしまり、傘のくすんだレンガ色という中間色を同系色のチリメンの柄で地味にまとめた渋いやつと言える。傘の歯ごたえの良さと癖のない味で色の悪さは充分にカバー出来ていた。そして、何よりも大量に取れ、スープで冷凍保存も可能な便利なキノコとしてまあまあの位置に存在していた。毒性があるとは露ほども思っていなかった。それもそのはず幾度となくスープやシチューにして食べていたからである。

 6月の雨続きの合い間にこの年初めてのウラグロニガイグチが取れた。傘の径が7cm程3本である。今までは汁気の多い料理でしか食べた事がなかったので今度はスパゲッティにでもしようと思い、少な目の水にキノコを入れだしを取る。バターにつぶしたニンニクを入れ、タマネギをいため、そこに刻んだキノコを入れだし汁と一緒に煮つめる。塩、こしょうで味を付け、最後に生クリームを加え、茹であがったスパゲッティにあえた。ちょっと見はイカスミのスパゲッティのようだった。全部は多かったので1/4程残しておき、ワインなど飲みながらの山の幸の夕飯を終えた。

 それから10〜12時間程たった頃だったと思う。朝方から胃がシクシクと痛み始めた。シクシクはしばらく続き、そのうち少しづつ重くなってきた。胃ケイレンが始まったのかと思いそのままひっくり返っていた。梅雨とはいいつつも真夏のような暑さ続きに知らぬ内に胃が弱っていたのかもしれない。胃薬を飲む。「そのうちすぐおさまる」との憶測ははずれいつまでたってもおさまる気配はない。 たまに起こる胃痛とはどうも違うようである。痛みの強弱はあったがその日1日ついにおさまる事はなかった。

 2日目、痛みは少しおさまり食欲はあまりなかったが何かお腹に物を入れなくてはと思い、トーストと残り1/4のスパゲッティを食べる。極く少量である。うまみエキスを充分吸ってふやけたスパゲッティはそれなりにまたうまい。それが追いうちをかけてしまったのか1日目と同じ痛みがまた起こった。何しろウラグロニガイグチが毒だとは思っていないので具合の悪さとキノコの因果関係は全く頭の範疇には入っていない。ましてや完全に消化してしまった後の事である。3日目も多少の痛みは続いた。その間下痢も吐き気もなくただ痛みのみであった。その後痛みのあった3日間を含め一週間は食欲があまりない日が続いた。まわりからの「また変な物でも食べたんだろ?」の合唱の前に「理由がわからない。風邪が胃にきたのかもしれない。」と答えるしかなかった。何しろ何度も言うが、その時点で本人はキノコ=毒の意識は皆無なのだから...

 徐々にその事は過去の話になり忘れつつあった。研究会の野外観察会があり出席した。鑑定会の時にウラグロニガイグチに対して注意を促すような話があった。しばらくはふんふんと聞き流していたが、突然ハッと思い頭の中で一瞬にすべてがつながった。「ウ・ラ・グ・ロ・ニ・ガ・イ・グ・チ」食べ物に原因があると仮定し、消去法でいけば残る原因はあれ以外には考えられなかったからである。 会誌に詳しく中毒例が載っているという話を聞き、早速会誌を取り寄せて読んだ。症状が全く違う。調理法も水を加えかなり煮込んでいるので半生という事はあり得ない。個人差なのかその時の体調か? 生える場所による個体差なのか又は料理法か? 同じ場所に生えるウラグロニガイグチを大量に持ち帰った友人はシチューにして家族でおいしく食べ何ともなかった。という事実もある。ますますわからない。少なくとも水分が少な目の料理は敬遠しておいた方が無難なようでもある。取り敢えず自分のリストには要注意のキノコに入れる事にした。

 研究とまではいかないまでもキノコ好きの友人とこつこつと実戦的なキノコとのつきあいを10数年続けてきて限界に来ていた感があった。この会の存在を知り、無限に広がりそうなキノコの世界に改めて深入りしそうである。そして情報交換の場として大切な事もわかった。今回の例が同じようなキノコとの付き合いをされている方々に一つの情報として役に立てるなら幸いである。




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