多孔菌に集う動物
横山 元(浦和市)


a  多孔菌のカワラタケの菌糸体からクレスチンという抗がん物質が見つかり,現在では8商品が抗がん薬として発売されています。このほかに多孔菌の成分を漢方薬や、健康食品として利用販売されているものがあります。私たちが身近に生えている多孔菌を観察しても採集利用している菌類は限られています。
 しかし,多孔菌を生活のより所としている動物たちがたくさんいます。カワラタケだけを見ても食くしていた動物はコガネムシ,オオキノコムシ,ゾウムシ,ミノムシ,コオロギ,カタツムリの仲間がおります。広葉樹に発生した多孔菌の臭いをかぎつけカブトムシやクワガタムシ,幼虫時に朽ち木を食べる一部のタマムシ,カミキリムシ等が産卵しています。これらの幼虫は多孔菌の菌糸がまん延した材を食べながら数年かけ成虫となるものもいます。特にクワガタムシの幼虫は多孔菌の菌糸が延びた材に依存しているものが多く,サナギになるまで食べ続けています。クワガタムシの幼虫が食い進んだ孔道跡はほかの動物たちのすみかにもなっています。多孔菌の生えた材中に越冬していた動物の一面を紹介いたします。

1. カブトムシ

 コガネムシ科の頂点に立つカブトムシは菌類の伸びた腐葉土やたい肥,朽ち木に卵を生みつけます。大きなくなった幼虫は朽ちた材にもぐり込み,ネズミのようにかじりながら越冬しています。カブトムシの仲間は一年で成虫になりますので冬はすべて幼虫でいます。子供たちにはクワガタムシとともに人気のある甲虫です。

2. クワガタムシ

 クワガタムシの幼虫は多孔菌の生えた広葉樹材中に見られます。特にカワラタケの菌糸がまん延した材には多くの幼虫とともに成虫も越冬しています。最近ではオオクワガタをより大きく飼育するため,オオヒラタケやミダレアミタケの菌糸が有効といわれています。種類によって幼虫で2~3年,秋に成虫となり,そのまま越冬,夏に野外活動するものも います。

3. カミキリムシ

 数多い種類の中で朽ち木を好むカミキリムシの幼虫と成虫が観察できます。秋に成虫となったものは,そのまま越冬し夏に穴をあけ出てきます。カミキリムシの成虫でサルノコシカケ等の硬いキノコを食しているものもいます。クワガタムシの幼虫はC型の姿勢ですがカミキリムシは背筋を伸ばしています。またカミキリムシの幼虫は足が退化してありませんので同じ材中に生息していても判別できます。

4. タマムシ

 朽ちた材を好む一部のタマムシの幼虫が菌糸材を食しています。頭部が大きい八頭身のグロテスクな幼虫ですのですぐにわかります。甲虫類は幼虫より成虫の方が親しみやすく魅力があります。特にタマムシの場合はどなたが見ても金属のような輝きのタマムシ色に魅了されることでしょう。

5. オサムシ

 地表徘徊性のオサムシは地中や朽ちた材の中で越冬しています。アオオサムシやマイマイカブリが見られました。アオオサムシから冬虫夏草のオサムシタケ(成虫,さなぎ,幼虫),オサムシタンポタケ(成虫,幼虫)が発生いたします。オサムシが菌類を食している決定的証拠が得られないでいます。

6. ゴミムシ

 ゴミムシもたくさんの種類がいるのですがカワラタケの生えた材に集団で越冬していたのはアオゴミムシでした。夏場はオサムシ同様,敏しょうで観察しにくいので捕らえ飼育するのもいいでしょう。キツネノタイマツのグレバを食しながらの交尾を観察しています。

7. キマワリ

 甲虫類は幼虫と成虫では食性が全く別なものが多いのですがキマワリは幼虫,成虫とも菌類を食しているものもいます。幼虫は朽ち木の中で菌糸材を,成虫は多孔菌やイグチ類を食しているのを観察しています。菌食性の動物は乾燥気味でキノコが少ないと生えているキノコに集中しますので観察しやすくなります。 

8. ハサミムシ

 ムカデとともにタヌキの好物です。冬場に朽ちた材をバラバラにしているのは子供たちがクワガタムシの幼虫捕りかと思っていたのですがタヌキの仕業でした。ハサミムシは柔らかいキノコや粘菌を食しているのを観察しています。素手で捕らえると尾にあるハサミで攻撃されますが毒はないようです。ハサミムシの越冬用ベッドは真白い菌糸でした。

9. カメムシ

 常宿の民宿の話では秋になるとカメムシが越冬のため窓際に集団で押し寄せカメムシ対策が大変だという。12月に宿泊したさいも部屋にカメムシが数頭おり,刺激しないよう紙にのせ窓からほうりだしました。多くのカメムシ類がキノコにかかわっていますが寒くなると多孔菌の生えた材中に集団で越冬するものもいます。

10. スズメバチ

 スズメバチはシラタマタケを食することが知られていますがカワラタケに食いついているのを観察したことがあります。巣作りの材料にでもしているのでしょうか。カワラタケが生えていた材中に越冬していたのはキイロスズメバチとオオスズメバチでした。朽ち木にあなをあけ越冬している女王蜂の多さに驚いています。

11. ゴキブリ

 嫌われ者のゴキブリは夜行性のため見ることは少ないと思いますが,夜のキノコの観察では普通に見られます。夜のキノコには予想もしていないような虫たちが一杯集まっています。ゴキブリは雑食で病原菌を身につけ,まき散らすことで知られています。キノコを洗わずサラダで食べてる方は注意が必要です。

12. シロアリ

 シロアリはゴキブリやカマキリと兄弟なのです。大昔に別れたので体のつくりが基本的には同じだという。日本のシロアリしか見ていない私には想像もつかないことです。木材食のシロアリの仲間には腸の中に原生動物をすませ消化させているものもいます。菌類にかかわっているアリが多いのも特徴です。

13. ダンゴムシ

 アルマジロを小さくしたようなダンゴムシは節足動物甲殻類に属し,エビやカニの仲間です。危険を察知すると身を丸めダンゴのようになります。わかりやすい名前で親しみがあります。材中で越冬しているときはヨロイで身を丸め効率よく眠っています。夏場には好物の腹菌類や粘菌も食しています。

14. ムカデ

 ある構内に生えたアミガサタケの30%くらいにムカデとダンゴムシが入っていました。柄にあなをあけアミガサタケの内部に侵入しています。今のところムカデはキノコを食しているのではなく,キノコの中にいる小さな虫を捕らえ食していると思われています。ムカデは腹菌類の柄の中でも時々見られます。

15. ヤスデ

 今までに4種類のヤスデの菌食を確認していますが,ほかのヤスデたちも菌類を食していると思われます。昔,キシャヤスデが大発生,国鉄小海線の列車がスリップして運転できなくなったこと記憶しています。最近では長野県浅間山麓の道路側溝に山からはいでたヤスデがあふれ出でてる異様な光景を目撃しています。写真はマクラギヤスデです。 

16. キセルガイ

 陸貝のキセルガイは多孔菌に限らず菌類ならほとんど食しています。食性はカタツムリやナメクジと同じです。ニクウスバタケを集団で食しているのを観察しています。朽ちた材の中で越冬しながら,冬でも活動している粘菌や菌糸を食しているようです。


参考文献 (さらに詳しく知りたい人のために)
岡島秀治・海野和男共著 日本の甲虫 小学館 1993年
昆虫の生態図鑑 学習研究社 1996年
斎藤良夫著 埼玉県の甲虫 埼玉県教育委員会 1978年
相良直彦著 きのこと動物 築地書館 1989年
杉山信夫編 冬虫夏草菌研究会通信 bQ1998年
椿 啓介著 カビの不思議 筑摩書房 1995年
橋本信也著 薬と病気の本 保健同人社 2000年
安富和男著 ゴキブリのはなし 技報堂出版 1991年 
吉田賢治著 クワガタムシ・カブトムシ 成美堂出版 2000年
松本忠夫著 社会性昆虫の生態 培風館 1983年



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