遊び心
小林 敏昭(行田市)


a  キノコを学術的に研究されている方や人工栽培に真剣に取り組んでおられる方などには甚だ不謹慎に思われるかもしれないが、趣味の範疇でキノコを見つめている者としてはキノコは所詮遊びである。ただ、遊びといってもその源泉には予期せぬ結果への期待感があり、思わぬ所で思わぬキノコに遭遇したときの喜びなどは、キノコを趣味とする者にとって大きな楽しみである。
 さて、本稿がはたして本誌の投稿規定に収まっている内容であるかは甚だ疑問であるが、01年の暮れにテレビのクイズ番組「パネルクイズアタック25」に出場したのでその状況を報告しておきたい。まずは、きのこ研究会の会誌と「アタック25」への出場との関係の説明が必要だ。
 「アタック25」という番組は、毎週日曜日13時25分からテレビ朝日で放映されている長寿番組で、現在残っている数少ない正統派のクイズ番組である。毎回、番組への出場者募集があり、「クイズが初めての方も歓迎」などと案内される。以前より、応募してみようかなという漠然とした思いはあったが、01年夏までは実際に応募はがきを書くには到らなかった。
 この番組に出場するためには、まずははがきを出し続けて予選に呼ばれる必要がある。予選では、一次試験として雑学知識全般を問われるペ−パ−テストがあり、これに合格するとTV出演の適性が問われる二次試験としての面接がある。私の面接では、きのこ採りを趣味として紹介したが、面接者には世間的にはちょっと変わった趣味であるキノコが結構PRできて、これが合格のポイントになったように思われた。また、番組の収録時には、妻がオリジナルに創作したタマゴタケをデザインしたベストを着用して出場した。どうだろうか、この接点で本誌への投稿を許してもらえるだろうか。
 いずれにしても、キノコとクイズ番組の共通点は、タイトルにした「遊び心」である。実際に応募してみる気になったのは、職場で以前働いていて病気退職して闘病生活を送っていた女性の夭折、また自分自身の担当職務の変化などから、自分自身の一生でもっとチャレンジがあってもいいのではないかと感じたことである。ただ、応募してもどうせ出場することはないだろうという安全弁を考えていたのが本音であった。実際に出場通知が届いたときには、期待より不安の方がはるかに大きかったというのが偽らざる心境である。
 これは本番の当日に聞いたことであるが、毎週4名の出場者は、はがきでの応募者約600名から選ばれたとのことで、自分にとっては本当にまさかの出場であった。私が呼ばれた関東地区の秋期予選は、10月13日に東京のABC会館で約200名の参加者により、一次予選と予選通過者の二次面接が行われた。合格通知が10月末に届き、出場日決定の第一報が11月6日であったので、かなり早い出場決定であった。収録は12月13日と通知されたので、事前勉強の期間は約1ヶ月。放映予定日の12月23日の前後1週間の記念日、過去の出来事、有名人の誕生日などを勉強しておくようにとのアドバイスがあった。
 自分自身のことなので確かに言えることは、面接を通ったのは必ずしもペ−パ−テストの最高得点者ではなく、面接での印象(自己PRのほかに明朗さ、声の大きさなど)に重点が置かれていたということだ。自信のない小生は、クイズの本での勉強や新聞記事から問題になりそうなトピックスのスクラップなどを開始したが、所詮は付け焼き刃であり、日が経つにつれ不安は募るばかり。そしてついにスタジオに出かける日が来てしまった。
 番組の制作は大阪の朝日放送のため、収録日の朝に新幹線で大阪に向かったが、車中での移動の時から胸はドキドキ。普段ならば新幹線に乗ったらすぐに眠るところ、この日は興奮して全く眠れず。何せ日頃日陰でキノコを探している地味な身からすると、TV出演などという眩しい舞台はもちろん初めて。さあ、いよいよ朝日放送大阪本社だ。
 出場者4名が揃ったところで簡単な説明を受け、スタジオに入る前には、メイク室でメイクさんから髪を梳かされたり顔に何か塗ってもらう。この頃から緊張はさらに高まるばかり。スタジオではパネルの取り方、答え方の練習などリハ−サルが進み、各出場者ともに「声が小さい」などとの注意を受ける。そして本番。秒読みのカウントダウンから、司会者の児玉清さんの挨拶で番組スタ−ト。問題は沢木美佳子さんから次々に出題されるが、オ−プニングの顔当てクイズからして全く分からず、波に乗れない。分からない問題ではさらに不安が募り、分かる問題でも他の出場者が解答権を得てしまい、焦燥感は増すばかり。解答ボタンに乗せた右手の動きが全く悪い。ああ、このままパネル0枚で終わってしまうのか・・・・・・。
 実際には、終了直前の4問は続けて解答できたので、結果的に4枚のパネルをゲットできたが、収穫はこの4枚だけであった。冷静に見れば実力相応の結果だったといえる。しかし、解答ボタンを押すタッチの差で負けた問題が何題もあったのが何とも悔しい。やはり、家でテレビを観ての解答とスタジオでの本番との差は大きい。


「アタック25」出場時の記念写真(01年12月23日放映;筆者は左端)

 反省としては、事前の訓練として、問題文の読み上げの途中でいかに早く期待される解答を察知して迅速に解答ボタンを押せるか、その練習を行っておくべきだったことである。これは、実際に出場してみて、他の解答者の反射神経がいかに早いかということを体験して初めて分かったことである。ともあれ、タイトルに記したように所詮は「遊び心」の精神。司会者の児玉清さんやアシスタントの沢木さんと直接話をしたり、写真に収まったり、緊張感の中にも日頃味わえない貴重な体験をすることができた。
 結果として、今回の冒険の成果は何であったのだろうか。自分自身についてみるならば、パネル獲得枚数はともかくとして、一度出場してみたいという漠とした望みがいみじくも実現し、気持ちのけじめがつけられたこと。また、この非日常的体験の中で日頃感じることのない緊張感を図らずも味わい、これが何とも人生の貴重な想い出の一コマになったことだ。まだまだ何かやれるぞ、という気持ちを確かに目覚めさせてくれた。
 一方、家族や友人達に対しては、今回のパフォ−マンスは格好の話題提供になり、日頃おろそかなコミュニケ−ションを活性化する役割を幾ばくか果たせたように思う。
 人生の「遊び心」はこれからも大事にしていきたい。



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