■ アカネズミの坑道に発生したモエギタケ | ||
横山 元(さいたま市) |
a | モエギタケが小動物の坑道周辺に発生することは既に知られていたが,何の動物なのか確認されていなかった。今回,モエギタケがアカネズミの坑道から発生していたのを確認したので報告する。 今までにモエギタケが発生していても他人の別荘地や屋敷林,公園のため発掘できず確認できなかった。さいたま市浦和地区郊外も住宅が多くなり,モエギタケやほかの菌類が発生しても気兼ねなく発掘できる場所は極端に少なくなっている。モエギタケが発生していたのは雑木林でメタケ(篠竹)が密集,中に入ると外からは見えず落ち着いて発掘作業ができる場所だった。 モエギタケ Stropharia aeruginosa (Curt.:Fr.) Quel. ここは1999年10月にホンドタヌキのため糞のカキ種子から発生するカキノミタケを観察するため,メタケを切り開き小道を造ったところである。 この糞場は現在も使用中でカキノミタケを3年連続観察している。ほかにタヌキの糞に発生する接合菌,子のう菌,担子菌類等を観察するため週に数回,通っている場所でもあった。 モエギタケの発生に気づいたのは2000年10月のことで数十本観察できた。そのうちの一本が坑道に陥没しカサだけが見えていた。モエギタケを抜くと落ち葉の下に坑道が見え間違いなく小動物の坑道周辺から発生していたのである。この秋はそれ以上追求できなかった。それは「菌食性の動物」と「糞生菌」の観察に追われていたからである。 2001年11月に同じ場所の広さ15uくらいのところにモエギタケが発生した。モエギタケが発生している手前,30p位から掘り進んだ。メタケの地下茎が張っているので掘りづらかったが,小動物の坑道はすぐに見つかった。 坑道発掘風景 坑道はメタケの地下茎より上にあり,メタケを避けて通っていた。坑道は浅く,地表から5〜6p、深いところでも15p止まりだった。モエギタケは坑道の真上、又は、ずれても4〜5pのところに発生していた。モエギタケの白く長い菌子束が坑道を囲むように網目状に伸びていた。撮影するために明るい方から掘り進んだが,モエギタケの反対側に坑道があり,写真を撮れないこともあった。 モエギタケ偽根 モエギタケ周辺の地中を竹ぐしで刺してみると坑道の存在や深さ,方向まで簡単にわかるので,坑道を確認してから掘るようにした。この場所で4箇所を発掘し,すべての坑道周辺からモエギタケの発生を確認した。数日後,降雨があり少し離れたところにもモエギタケが発生したので3箇所発掘,計7箇所とも同じ結果だった。 小動物の坑道は最初の発掘では何の動物かわからなかった。常識的な考えでモグラ又はネズミと思えたが,モエギタケ近くにモグラの坑道もモグラ塚も見当たらなかった。ここではネズミも見かけたことがなかった。モグラやネズミにしろ捕らえて確認することが何より重要だ。 モグラのワナは竹筒型,ネズミは金網製箱型の市販のワナを仕掛け,最初に捕らえたのはアカネズミだった。このアカネズミはメスで出産経験があるのか乳首が発達していた。アカネズミは全部で7頭捕らえることができたが,これ以上捕らえても無意味と思い中止した。アカネズミは警戒心がないのか,ワナにかかりやすいネズミだった。クマネズミのようなずるがしこさがなくワナを仕掛けると必ず一晩でかかった。モグラは最後まで一頭も捕らえることができなかったので,モエギタケを発生させていたのはアカネズミの坑道と断定した。 アカネズミ アカネズミの坑道周辺にどうしてモエギタケが発生したのかは,ふん尿説が濃厚だ。アカネズミのふん尿は,モグラの雪隠(せっちん)のように決まった場所に排せつするのではなく,坑道内ならどこでもばらまき排せつしているのではないかと考えられる。しかし,アカネズミの雪隠と思われる,赤土が乳白色に変色したところもあったし,地表への出入口もあった。もっとアカネズミの生態観察も必要だ。ワナで捕らえたアカネズミが一晩過ごした赤土の地表には,ふん尿が排せつされていた。排せつされた地表一面に4〜5日で接合菌が発生,また,糞には7日くらいで,子のう菌が発生した。 ほかのネズミより体の小さいアカネズミ一頭が一晩に排せつした糞は7〜8粒であったが尿量はわからない。捕えたアカネズミは7頭であったが,もっと多数生息していることは明らかだ。アカネズミの坑道は地中に網目のように張りめぐされており,坑道内のふん尿の年間排せつ物は相当量になる。 アカネズミ坑道 多量の排せつ物でモエギタケが住みやすい環境に変化,発生したと思われる。今回はアカネズミの坑道周辺から発生していたが,地中の坑道を主な生活圏としているネズミはほかにもいるので,アカネズミ以外のネズミがモエギタケにかかわっていることも十分考えられる。( 2001.11.30) |