きのこ講演会
世話人:大屋道則
報告:東平恵司
開催日:2001年2月18日(日)
講師:吹春俊光氏(千葉県立中央博物館)
会場:埼玉県民活動総合センター
参加者:28名
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a  久しぶりに、知的刺激、知的興奮を味わいました。
 吹春さんの講演は、要所を押さえ、OHPやスライドを交え、シャープで柔らかく、今までにない最新の内容であったと思います。配布資料も充実していました。「ナガエノスギタケ発掘記」、「胞子をつくる特殊な器官――きのこって何?@」、菌類と植物の共生――きのこって何?A」(別に解説図資料つき)、「菌類の分類系統」、「New Concepts of kingdoms of Organisms」、「菌学講座『きのこの顕微鏡観察入門」(これは優に一冊の小冊子であり、単に顕微鏡操作に関するものではなく、きのこの分類全般に着いて、本郷氏の検索表の見方を通じて論じたもの。図版や写真も鮮明です)。これらの資料の残部は、世話人の大屋さんの手元に有るはずです。ご希望の方は、大屋さんにお尋ねください。
 塩津会長挨拶の後、佐藤俊朗氏が吹春氏を紹介し、講演に入りました。
 先ず、生物界におけるきのこの位置について、栄養摂取法の違いに基づいたホィタッカーの「5界説」で菌界を示し、DNA研究の結果からも、きのこが多様な発生進化を遂げてきたのではないかと論じられました。きのこは栄養を融かして吸収するため、細いほど表面積が増え、管状の菌糸構造になること。こういう形態が、後に植物と菌根共生を行い、白亜紀以後、被子植物の進化拡大に、有意義な影響を与えたものであったこと。こういう形ですべての植物は菌根を持ち、きのことの共生関係にあることとの指摘は、私にとっては、新しい知見でした。松枯れや森林喪失が進み、特に酸性雨の影響が騒がれていますが、「酸性雨の森林への影響が問題となる現在、最初に打撃を受けるのは<植物と菌根共生を行っている>きのこたちだ。きのこは地球環境を考えるときにも、真っ先に注目されなければならない生物だ」と氏は主張されています。
 きのこは大きく子嚢菌、担子菌、接合菌の三種に分類できる。また接合菌はさらに二種に分類できる。四億年前に植物が地上に出現した際、菌根を持っていたことがリニア(シダ類)チャートで見られるが、その後、ジュラ紀から白亜紀に到り、新たに担子菌が2〜1億年前に発生して被子植物と菌根共生を行い、いわゆるきのこらしいきのこが誕生したと言われており、きのこは生物としては新しい仲間だと言うことになる。きのこと植物との共生関係が成立したことが、植物が海から上陸できた重要な要因であり、その後、被子植物の大繁栄をもたらす、主な要因だと言うことができる。植物の進化については、従来、教科書的に、昆虫との関係が重視されてきたが、きのことの関係の方が、むしろ、基礎的だといえるのではないか。病原菌は宿主の細胞膜を溶融破壊して栄養を吸収し繁殖するが、共生菌、共生きのこは宿主である植物と互いの細胞膜の保護・保全を前提に、栄養交換を行っている。さらに、菌類・きのこ同士が相互に密接な関係を持っているので、森林は、きのこ・菌類をベースにした統一的構造体として理解できる。
 等々、内容豊富な講演・講義でした。なお、吹春さんがお話になったきのこ本論については、少ない文字数では報告できないので割愛させていただきます。とにかく、知的刺激、知的興奮に充ちた一日でした。



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