きのこ講演会

担当報告:東平 恵司
開催日・場所:2月3日(日)、上尾市コミュニティセンター
講師:金城 典子氏(東京医科歯科大学)
テーマ:冬虫夏草
世話人:東平 恵司
参加者:41名(うち会員外5名)

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a   「女だてらに、よくまぁあんな危険地帯に出かけていくなぁ」と、言いたくなるような女史の活躍には、頭が下がります。3000mを超える雲南省の高山地帯。ある時は、崖の下を流れる急流を見下ろしながらの道なき道の道を、それこそ文字通り運を天に任せて、崩れるほどの荷物を積んだ木材運搬トラックとすれ違ったり、またある時は、先に走っていたそんなトラックが、路肩が崩れて急流に脱落し、多くの丸太が泥流に浮かび、「しばらくすると運転手さんも浮かんできましたけど、もう助からないんです」と、自分で撮されたのでしょう、スライドを解説しながら、心に痛みを感じながらも、また、間一髪の危機を思い出されて、おそらく身震いされながら、いとも当たり前であるかのごとくに、語られる女史。この人はニンゲンではない、スーパー・ウーマンです。とはいえ、電車の中では席を譲ってあげたくなるようなレディ以外でもない。「冬虫夏草を追いかけていくと、どうしてもこういうこと<女史の研究史>になるということが、分かっていただけますか?」と言われる「こういうこと」には、こんな危険に身をさらす「学問的」、「科学的」というよりは、もっと人間の基底部分から湧き上がってくるような、危険と労苦を厭わない学問的情熱も含まれているようです。
  研究費の都合上、このごろは一人でお出かけになることが多いとのことです。まったく、「よくやるなぁ!」というべきです。おかげで、我が国の冬虫夏草研究も、より深まってきたわけです。
  その冬虫夏草の有力な薬効成分メラトニン(melatonin)を、冬虫夏草からも単離的に分離し、定量分析したことは、女史の優れた業績です。そして、冬虫夏草にはmelatoninが、桁違いに、「大量に」含まれていることが分かったわけです。そのご努力も相当なものだったようで、「melatoninは結晶にするのが難しいんです」。「研究室から出てくると、(心身共に)疲れ(果て)ていて、クルマの運転席に座っても、しばらくの間アクセルが踏めないくらい、もう、倒れる寸前といった状態!」。「二年かかりました」。
  冬虫夏草からmelatoninの単離、定量分析は、金城氏の業績であり、これは、強調に値する事柄です。「薬事法」が障害になっているこの日本でも!早く合成されて、安く、売り出してもらいたいものです アメリカでは、すでに、melatonin抽出物、さらには、合成物質が、サプリメント<健康補助食品>として大衆的に販売されているとのことです<金城典子著『冬虫夏草』二見書房、p.171>。
  突然、どういう文脈からか、「ミミズにおしっこをひっかけるとオチンチンが腫れる」ことに話が、横道にそれました。何が飛び出してくるか分からないきのこ、その中でも不可思議さでは他に勝るとも劣らない冬虫夏草についてですから、意外な感じはしましたが、そんなことにも関係するのかと自分を納得させつつ拝聴していました。要するに、ミミズの種によっては、刺激すると造精器を破壊する物質を放出するものがいて、そういうミミズをいたずらした手で放尿のためにオチンチンを取り出す際に、造精器が傷つけられ、精子数が減少する、のではないか。マウス(orラット ?)での実験でも確認できるように、冬虫夏草やmelatoninを摂取させていた検体では造精器の解体が少なくなる、というようなことだったはず。造精器の解体などに帰因する精子数の減少は、「老化」に特徴的なことでもあり<最近では環境ホルモンの影響などで、若い世代でも、精子数の減少が見られるとのことですから、「精子数の減少=老化」と即断は出来ませんが>、この「老化防止」に冬虫夏草やmelatoninが「きわめてよく効く」、ということだったようです。冬虫夏草、とそれに含有されているmelatoninなど(と、言っておくべきなのでしょうか?)は、強壮剤・強精剤、「不老長寿薬」ではないか、少なくともmelatoninについては、かなりはっきりしてきているそうです。
  melatoninはセロトニンなどと共に、主として脳の松果体という小器官でで合成される脳内伝達物質、ホルモンの一種です(それが、どうして冬虫夏草に多く含まれているのか、また、どんな働きを、ただし冬虫夏草の中でしているのか、改めて気になってきました)。現在流行している鬱病(「人身事故で、現在、中央線は不通です!」の原因は、殆ど鬱病者だということです)というのはセロトニンの脳細胞シナプシスからの放出量が少ないことが原因の一つだそうで、melatoninはこのセロトニンの化学構造がわずかに変化した脳内ホルモンだ、ということは、melatoninは鬱にもよく効くのではないかと、つい最近まで鬱病に悩み、現在も多いに鬱っ気の聴講者の私としては大いに期待したところです。いわゆる「抗欝剤」等よりよく効くのではないかと思えるのですが。しかし、残念ながらそういうご指摘はありませんでした。
  「成長した体が20代で早くも老化現象を見せはじめることは、すでによく知られた事実ですが、この老化のカーブをコントロールするものとして注目された要素の一つが」「松果体から分泌されるmelatoninでした」。「たとえば年齢別に血液中のmelatonin濃度(松果体からの分泌量)を調べると、15歳前後の頃をピークに、その後は下がる一方です」。「仮に生後3ケ月の量を10とすると、以後思春期のピークへ向かって一気に上昇し、20歳から40代半ばまでどんどん減り続け10程度に落ちてしまいます。それ以後は下降気味に、わずか3〜5程度の分泌量が保たれるに過ぎません」。「こうして加齢とともにmelatoninの分泌が減ることがわかりましたが、それは逆に考えれば、「melatonin不足は老化を招く」ということを示唆することになります」。「それなら「人為的に補えば老化現象は防げるのではないか」という発想が生まれても不思議ではありません」。「果たせるかな、突如としてアメリカに”melaatoninブーム”が訪れたのが1994年のことでした」(同書p.40〜p.42)。でも、この日本では行政の怠慢で、ダメだ!というわけです。
  もっと明確に聞きたいと、マイクを探しに収納室に入っている間に、話はどんどん先に進んでしまったようです。
  melatoninを中心にした冬虫夏草の薬効については、先(下)に記した御著書を参考にして下さい。meratoninの「日周リズム調整作用」、「内分泌調整作用」、「抗酸化作用」(老化防止作用です)、「免疫力亢進作用」、「性的能力を快復する作用」など、必読参考文献だと思います。
  しかし、なぜ冬虫夏草に脳内伝達物質であるmelatoninが多く含まれているのか、また、このmelatoninは冬虫夏草にとってどんな意味を持っているのか、またまた、分からなくなってしまいました。

金城 典子著『やっぱりすごい「冬虫夏草」、生体リズムを整えるメラトニンも見つかった』二見書房、¥1300×1.05




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