■武尊山周辺観察会

   開催日:2011年9月25日(日)〜26日(月)

   観察地区:武尊山牧場、スキー場周辺

   参加者:21名(内、非会員1名)

   世話人:藤野英雄、松村祐二、大久保彦、西田誠之

   報告:西田誠之





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 ここ数年、9月の観察会は、嬬恋村バラキ湖周辺で行ってきたが、今年は上州武尊山
周辺に、設定した。
 武尊山は、近年東南麓にゲレンデが築かれてスキー場として賑わっているが、本来、日本百名山にも選ばれた関東屈指の名山である。その長い頂稜は、最高峰 の沖武尊をはじめ、川籠岳、家ノ串、剣ガ峰、前武尊等、いずれも2000mを超えるピークを列ねている。山名は、日本武尊(やまとたけるのみこと)に由来 する。頂上付近の岩場に、(あまり似つかわしくはないが)、その姿を刻んだ古い石像が立っている。この古への朝廷の若き英雄は、他にも、碓氷峠、四阿山、 両神山、武甲山等、我々に馴染み深い関東の地に、多くの伝説を残している。
 武尊山は独立峰であるが、山麓は広大で豊かな自然林に被われ、当然、きのこ狩りのシロには、事欠かない。温泉も湧いている。藤野世話人が、その山麓の片 品村に良い宿を見つけてきてくれたので、今回の観察会は、その周辺、すなわち片品川塗川の源流、武尊渓谷、さらに上部に大きく開けたスキー場や、牧場周辺 を探ることとなった。
 我々世話人グループ(松村さん、藤野さん、大久保さんと私)は、早朝に待ち合わせて、1台の車に分乗して現地へ向かった。前日に、インターネットを見て 参加を申し出られた方(Mさんと呼ばせて戴く)があり、関越道の赤城SAで待ち合わせて合流した。我々と同年輩の、高麗在住の男性で、聞けば、長年渓流釣 りやアウトドアスポーツに親しみ、野生きのこに出会う機会が多かったとのこと。渓流釣りの腕前は相当なもので、飯豊連峰の胎内川で、40pを超えるイワナ を釣り上げたこともあると伺った。
 採集場所へ向かう途中に、今夜の宿があり、挨拶をすましてから、さらに塗川渓谷の奥へ車を駆り、スキー場へ辿りついた。さすがに標高1000mを超え、 秋冷、ひとしおである。しばらく前迄の暑さの日々とは、うって変わった気温の低さで、気象予報は、この週末から、山地は寒さ対策も必要、と告げていた。
 雪のないスキー場程味気ない処はないが、幸い此処は上部に牧場があり、美しい高原が開けていて、武尊山の一方の登山口でもある。駐車場には既に登山者の ものらしい車が何台かあり、しかも、嬉しいことに、スキーリフトが動いていた。往復1000円とのこと。我々熟年者5人は、一も二もなく乗ることにした。 ゲレンデの横に遊歩道はあるが、リフト上部の牧場や森林地までは、標高にして、400m以上ある。歩けば、このダラダラ文章と同じように、きのこに巡り会 うまでにくたびれ果ててしまうかも知れない。
 身支度を整えて、5人が勇躍、一人ずつリフトにまたがった。ゆっくりゆっくり良い景色が開けてゆく。牧場には黒牛が残り少ない草を食んでいた。
 しかし、きのこ狩りに良さそうな、樹林帯はどこだろうときょろきょろ目をやっていると、ようやく、武尊山本来の深い黒々とした森が見えてきた。頂稜は雲 に覆われており、まだそこまではかなりの距離がある。はやく原生林の中へ潜り込みたいが、リフトはあくまでもゆっくりゆっくりである。
 私が初めて、武尊山に登ったのは、昭和49年(1974年)で、北の、上の原高原から登り、長稜の険しいピークを一つ一つ超えて、南麓の川場口へ下っ た。日帰りは到底無理な行程で、途中、手古屋谷の無人小屋に一泊したが、その小屋には床が張ってなくて、閉口した。やむなくシラビソの落枝を敷いて寝た。 その後、スキー場が開けて、この楽なルートが開けたので、十数年ぶりに登ってみた。しかしその時もリフトに乗った記憶がない。当たり前のように、ただスタ スタ歩いたのであろう。しかし、こちらのコースにも、深い森林帯の奥にひっそりと無人小屋があったのを記憶している。周りには多くのきのこがあった。今日 はリフトでゆくのであるから、せめて、そこまでは行けるだろう、と考えた。
 リフトを2基乗り継いで着いたところは、白樺の多い美しい高原帯だった。ナナカマドが沢山の真っ赤な実をぶら下げている。例によって、山菜、きのこ採取 禁止の標識があったが、幸い松村さんやMさんが腰にさげた籠をとがめられることもなかった。平坦な遊歩道を西へ歩き、ようやく森林帯に入った。はじめは明 るい白樺林で、足元の落葉は、かなり乾いている。踏み入ったとたんにすぐにMさんが、フウセンタケの仲間を見つけた。次々と、ササタケと思しき同じきのこ が見つかる、しかし、真っ先に目に付く筈の、ベニタケ類がほとんど見当たらない。すでに季節が大きく移ったことを実感した。まして、ここは標高1500m を超えているのだから当然だ。今日は、その地にふさわしいきのこに会いたい。言葉に出してはいないが、皆さん同じことを考えていたようだ。もしかしたら、 マイタケにも逢えるかも、、、その先、樹林は、ブナ、ミズナラ等が、圧倒するように覆いかぶさり、まさに武尊らしい奥深い原生林帯となった。何と素晴らし い処だろう、、道は幅広くしっかりしているが、もはや登山道の領域である。
 しかし、そうたやすく目指すきのこは見つからない、雨で痛んだものも多い。「案外だなあ」と思っているとようやく、発見。ウグイスチャチチタケである。 平地の雑木林には、見られない種である。皆でかがみこんで写真をとっていると、登山者がひとり、下山してきた。例によって「食べられるきのこですか?」と いう問いにはじまり、興味深深といった風で、話しかけてくる。聞けば、5時間以上かけて頂上まで行って来たとのこと。沢山のきのこがあったろうに、全く目 がいかなかったと残念がっていた。
 その後も、しばらく幅広い緩やかな道が続いていた。樹林の中へ入り込んだりしながら、探し回ったが、案外、きのこの影が薄かった。ツキヨタケも、ヌメリ ツバタケモドキも、アシグロタケも痛んで滅びかけたものが多かった。僅かにエビタケ(日本のブナ帯特産種)らしいものを見つけたが、あまりに幼菌すぎて、 断定できなかった。根元だけになった朽木にびっしりとヤキフタケが生えていたが、水分が多く濡れたような姿で環紋があり、普段見慣れた様子ではなかった。 またミノタケが同じような朽木に群生していた。硬質菌で一番多かったのは、やはり小型のツリガネタケだった。欧州では昔から火口として使用されていたそう で、「アイスマン」の遺体の持ち物の皮袋に残されていたことでも著名なきのこである。ブナの倒木に、しばしば丸っこく拳大で生えているのも、ツリガネタケ の大型種の変形なのだろうか。
 ハラタケ類では、フウセンタケ属が多く幾種か見られたが、ウスフジフウセンタケやツバフウセンタケ、ササタケ等の他は、同定が難かしかった。他には、ク ロゲナラタケやウスイロカラチチタケ等が見られた。子嚢菌では、モリノチャワンタケ?(傘のフチが波状に屈曲)、とXylaria属の1種(ブナノホソツ クシタケ?)を採取した。
 しばらく登った先で若い1団が何か作業していた。聞けば山地生のネズミの生態を調査しているという。ワナを仕掛けて捕獲もしている。事実小さなネズミが倒木の下に逃げ込んだのを、藤野さんが見つけた。しかし素早く隠れ込んでしまい、捕まえることはできなかった。
 巨木に囲まれた平地の、ベンチやテーブルがある処で、昼食をとった。足元の倒木には、可愛いクリタケの幼菌がびっしり並んでいた。Mさんが喜んで採取さ れた。今日は、発光を見る為のツキヨタケと、食用のクリタケをしっかり覚えて持ち帰りたい、とのこと。ツキヨタケの見分け方や、クリタケに似た種(クリタ ケモドキ、アシボソクリタケ、ニガクリタケ、ニガクリタケモドキ、アカツムタケ、カオリツムタケ等)との区別点を説明したが、熱心に聞いておられた。
 それから先は次第に登りがきつくなって来たので、松村さん、大久保さん、Mさんは、そのまま近辺を探ることとして、私と藤野さんのみが登ることにした。 二人になってやや足を速めて登ったが、やはりきのこの影が薄かった。ドクツルタケやカバイロツルタケ等テングタケ属数種が目に付いたのみであった。何と か、前述の避難小屋くらいまで行って、針葉樹林帯を探りたかったのだが、、、丁度下山してきた登山者に尋ねると、小屋まではまだ2km以上あり、シラビ ソ、コメツガ帯はさらにずっと高みまで行かなければ出てこないとのこと。それで断念して戻ることとなった。帰りに、ミヤマイロガワリを一個体見つけた。傘 の赤みが美しい姿だった。それで、あえて傷つけて「イロガワリさせる」ことなく、大事に新聞紙に包んで持ち帰った。近年各地の山で見られるようになった が、私の好きなきのこの一つである。
 そしてさらに少し下った処で、本日、一番特筆したい発見があった。登りには気付かなかったが、登山道傍のブナの一樹の腐朽部に、柄のあるきのこが束生し ている。背丈より高い位置にあり、手が届かない。見上げると、ヒダが薄茶色く日焼けたようになっているが、元は白っぽいきのこのようである。まず下から写 真を撮ってから、藤野さんが倒木を立てかけて上手に踏み台を作り、手をさしのべてもぎ取った。数束あり、傘は3〜4cmくらい。とっさに何物なのか、二人 とも解らなかった。成木から束生する、このような姿のきのこは、ナラタケやタモギタケ等を除けば、そう多くはない。オドウタケ等貴重種が多いとも言える。 すぐにヒメシロタモギタケのことを思い出せば解ったのだが、同種の純白の姿とは、あまりにも相違していたので、藤野さんも私も、手にとってから???とい う態であった。
(鑑定の結果、本種は、ブナノシラユキタケと判明した。ヒメシロタモギタケと混同されていたが、近年、別種として区分された菌である。(まだ、学名はな い。)この日、他にも採取されてこられた方があり、それはまさしく、全身白色の個体だった。我々が採取したものは、もともと日数を経てやや茶色味を帯びる 個体が、乾燥してすっかり日焼けし茶褐色化していたのだった。ヒメシロタモギタケは、灰白色で、ハルニレ、オヒョウ、ケヤキなどに生え、ブナノシラユキタ ケは、ほとんどがブナ生。前者は褐色腐朽菌で、後者は、白色腐朽菌。見た感じも、手触りも、かなり相違があるが、これまで同一視されてきたもの。)
 ようやく収穫を得た気がして、再び三人と合流して、往路を下った。途中カラマツのある処へ寄ったが、大した収穫はなかった。再びリフトを乗り継いで、こ 寒い風に吹かれながら下山した。思ったより収穫は少なかったが、あらためて武尊山の森林の奥深さと美しさを感じ、静かな感動すら覚えた。
 宿へ着いてみると、皆さん思い思いにきのこを持ち寄って、早速取り出して、こもごも眺めながら、鑑定を始めておられた。新井(基)さんが、到着するな り、車から取り出した大きい傘のきのこは、オオイチョウタケのようだったが、ずいぶん褐色化していた。杉林に群生していたそうで、皆、古びていたようであ るが、昨今少なくなっている種なので、そのシロは貴重と言えるだろう。いつも美味しいきのこをゲットしてくる久保さんが、今日は、「ね(無)かったなあ」 と言っている。同じく美味菌ハンターの武藤夫人が、オシロイシメジを、手籠に品よく並べている。私が「これは中毒例もあるし、放射能のこともあるし、食べ ない方がいいよ」と、余計な?ことを言うと、「意地でも食べる」とのご返事が返ってきた。しかし、やはりいつもの明るい笑顔が一寸見られない。
 宿は広くて、部屋数も多い。2階に板張りの大広間があり、そこを鑑定場として、開放して戴いた。一晩じっくり観察できるので、大変有りがたかった。大き なシーツを敷いて、採取されたきのこを並べ、福島会長を中心にして、鑑定を行った。結果、下記の種を確認したが、判定に悩んだ種も、またついに判明しな かった種も有った。
 私達のグループが採取してきた判明種は、前記の他、ムラサキハツやチャオビフウセンタケがあった。またカラマツシメジに似て、ヒダに黒いシミが一面に出 ていた種は、付近に落葉松が見当たらなかったので、マツシメジの仲間かと、福島会長をも散々悩ませたが、結局、カラマツシメジそのものであった。(傘の表 面に粘性がないことはもとより、縁に浅いシワ状隆起が見られるのが、一つの外見上のポイントになるようだ。)
 此処まで記載した種は、一部を除いて、平地林では、見られないものが殆どである。
また判明種の中には、ツバマツオウジ、シロノスミゾメシメジ、シロカヤシメジ、ウコンクサハツ、ニオイアミタケ等、仮称種や希少種も多く混じっていた。

 宿の湯は、透明で、湯加減もよく、何時までも浸っていたい程だった。
 全員、宴会場に集合して、いつものように、きのこの話題を交わしながら、楽しい一時を過ごした。一人ずつ自己紹介を兼ねて近況を吐露していただいた。
 放射能の影響で野生きのこが食べられないことや、平日にまたがる日程の為、今回の参加者は、例年よりかなり少なかったが、いかにも、常連のきのこ好きの集まりという感じで、一致していた。宴会場を引き上げた後も、夜更けまで個室での語り合いが尽きなかった。


 確 認 種

(ハラタケ類)


ヒラタケ科 ウスヒラタケ、ツバマツオウジ

キシメジ科 オシロイシメジ、シロノスミゾメシメジ(青木仮称)、オオキツネタケ、
 カレバキツネタケ、ツキヨタケ、ホテイシメジ、ブナノシラユキタケ
 シロカヤシメジ(池田仮称)、カヤタケ属
2種、サマツモドキ、カラマツシメジ、ナラタケ、
 クロゲナラタケ、ナラタケ属、クロサカジキシメジ近縁種、
オオイチョウタケ、
 モノカレバタケ属、カバイロオオホウライタケ、ホウライタケ属、
ヒロヒダタケ、
 ツエタケ属1種、ヌメリツバタケモドキ、スギエダタケ、センボンクヌギタケ、チシオタケ

ツキヨタケ 撮影 大久保彦 ホテイシメジ 撮影 大久保彦
ブナノシラユキタケ 撮影 西田誠之 カラマツシメジ 撮影 上原貞美
シロカヤシメジ(池田仮称) 撮影 上原貞美

テングタケ科 :ヒメコナカブリツルタケ、カバイロツルタケ、ドクツルタケ、
 ヒメベニテングタケ、ミヤマタマゴタケ、コタマゴテングタケ

ヒメベニテングタケ 撮影 大久保彦

モエギタケ科 :クリタケ、スギタケ、ヌメリスギタケモドキ、アカツムタケ
クリタケ 撮影 西田誠之

フウセンタケ科 :キアセタケ属、ササタケ、チャオビフウセンタケ、ツバフウセンタケ、
 ウスフジフウセンタケ、フウセンタケ属3種

ツバフウセンタケ 撮影 大久保彦

イグチ科 :キヒダタケ、キヒダタケsp、ハナイグチ、シロヌメリイグチ、ヌメリイグチ、
 ミヤマイロガワリ、ヤマイグチ

ミヤマイロガワリ 撮影 西田誠之

ベニタケ科ケシロハツモドキ、クロハツ、アカカバイロタケ、ムラサキハツ、クサハツ、
 オキナクサハツ、ウコンクサハツ?、ベニタケ属数種、チチタケ、ウグイスチャチチタケ、
 ウスイロカラチチタケ、チチタケ属2種
ムラサキハツ 撮影 大久保彦ウグイスチャチチタケ 撮影 西田誠之

(ヒダナシタケ類)

ミミナミハタケ科 :イタチナミハタケ

ラッパタケ科 ウスタケ

カノシタ科 :カノシタ

エゾハリタケ :ブナハリタケ

スエヒロタケ科 :スエヒロタケ

タコウキン科 :ニオイアミタケ、カワラタケ、アラゲカワラタケ、オオオシロイタケ、
 シロカイメンタケ、マスタケ、コフキサルノコシカケ、オオチリメンタケ、
 ツリガネタケ大型種?、ヤキフタケ、ミノタケ、クジラタケ、オツネンタケモドキ、
 アシグロタケ、エビタケ?、ホウロクタケ、チャカイガラタケ、カイガラタケ、
 ツヤウチワタケ、アオゾメタケ、スジウチワタケモドキ、ヒイロタケ、チリメンタケ、
 オシロイタケ
ツリガネタケ大型種? 撮影 西田誠之エビタケ幼菌? 撮影 大久保彦

マンネンタケ科 :マンネンタケ

タバコウロコタケ ネンドタケ、ネンドタケモドキ

サンゴハリタケ科 :ヤマブシタケ
ヤマブシタケ 撮影 上原貞美
(本種は鑑定会終了後の帰路に観察されましたので、下記種類数には含めていません。)

(腹菌類)

ホコリタケ科 :タヌキノチャブクロ、ホコリタケ


(子嚢菌類)

チャワンタケ科 :モリノチャワンタケ?
モリノチャワンタケ? 撮影 西田誠之

クロサイワイタケ科
:Xylaria属(ブナノホソツクシタケ?)

Xylaria属(ブナノホソツクシタケ?)
撮影 大久保彦


        (以上採取種約100種、判明種83種)



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