■野外観察会

開催日:2012年10月14日(日)

集合場所:小川げんきプラザ駐車場

観察地区:小川町・小川げんきプラザ周辺

参加者:会員・一般者26名

世話人:福島隆一・大舘一夫

報告:福島隆一

事前説明



昨年と同様、会員の方や一般の方と一緒に万葉の小道から回りましたが、歩き始めて直ぐ足が止まりました。 大舘さんが大形のツルタケ型のきのこの写真を撮っていたのです。 オオツルタケの様に柄に黒いだんだら模様が見られず、ツボの様子も一緒に撮る為、掘り起こしていた所、ツボの外皮が赤紫色をしていました。 カビやバクテリアによる汚染かと思い何度も見たのですが、それらしい様子も見られませんでした。 土の中に赤紫の染料でも含まれているのではないかと探しましたが見当らず、訳の判らないスタートに成りました。 途中ミヤマザラミノヒトヨタケの成菌や老菌が多数見られ、小川げんきプラザでは初めてのことでした。 日陰道から沢添いを歩き、きのこが見つかる度に皆さんに集ってもらい種の解説をしたり、樹種との係わりやきのこの栄養生活等の生態的な話をしながら、西金勝山、前金勝山、金勝山、本館コースを歩きました。 昼食後西田、大館、吉永、福島の4人できのこの鑑定を担当しました。 今回は、イッポンシメジ属を代表する大形のウラベニホテイシメジ、イッポンシメジ、シミイッポンシメジ、クサウラベニタケなどが勢揃いしました。 またバライロツルタケやハダイロニガシメジ等の珍菌も見られましたが、私にとって一番目を引いたのは、ト澤先生から教えて戴いていたハラタケ属のきのこでした。 事務局を始め多くの方にお世話になり、14時30分頃無事解散致しました。 今回、2009年日本菌学会のフォーレ目録と2011年改定した山渓カラー名鑑を参考にして種の新分類を試みました。

 確 認 種
担子菌門 ハラタケ亜門 ハラタケ綱
ハラタケ亜網
 ハラタケ目
  ハラタケ科
   ハラタケ属:クズエノハラタケ(※イ)
   ノウタケ属:ノウタケ、オオノウタケ?
   ホコリタケ属:ホコリタケ、ヒメホコリタケ
   カラカサタケ属:カラカサタケ
   シロカラカサタケ属:アカキツネガサ
   オオシロカラカサタケ属:オオシロカラカサタケ
オオシロカラカサタケ 撮影 河野茂樹

  テングタケ科
   テングタケ属:タマゴタケ,ミヤマタマゴタケ,コトヒラテングタケ,アケボノドクツルタケ,
          ヘビキノコモドキ,バライロツルタケ,コテングタケモドキ(※ロ),
          タマシロオニタケ,アカツボオオツルタケ(仮称)(※ハ)
タマゴタケ 撮影 河野茂樹 ヘビキノコモドキ 撮影 河野茂樹

  オキナタケ科
   キショウゲンジ属:キショウゲンジ
  フウセンタケ科
   フウセンタケ属 キヒダフウセンタケ,クリフウセンタケ
  イッポンシメジ科
   イッポンシメジ属:クサウラベニタケ,ウラベニホテイシメジ,イッポンシメジ,
            シミイッポンシメジ
  ヌメリガサ科
   アカヤマタケ属:アカヤマタケ,トガリツキミタケ
   ヌメリガサ属:モリノハダイロガサ
  アセタケ科
   アセタケ属:キヌハダトマヤタケ
  シメジ科
   シメジ属:ハタケシメジ
  クヌギタケ科
   クヌギタケ属:チシオタケ,サクラタケ
チシオタケ 撮影 西田誠之

  タマバリタケ科
   エノキタケ属:エノキタケ
  タマバリタケ科
   マツカサキノコ属:スギエダタケ
  ヒラタケ科
   ヒラタケ属:ヒラタケ
   キヒラタケ属:キヒラタケ
  ウラベニガサ科
   ウラベニガサ属:ウラベニガサ,ベニヒダタケ
  ナヨタケ科
   ヒメヒトヨタケ属:ミヤマザラミノヒトヨタケ
  モエギタケ科
   クリタケ属:ニガクリタケ
   スギタケ属:ヌメリスギタケ,キイロツチスギタケ,スギタケ属(※ニ)
  キシメジ科
   カヤタケ属:ユキラッパタケ,ムレシメジ(※ホ)
   キシメジ属:ハダイロニガシメジ(※へ),アシボソシロシメジ(※ト),コノハシメジ
スギタケ属 撮影 河野茂樹


 イグチ目
  イグチ科
   オニイグチ属:オニイグチモドキ
   キクバナイグチ属:セイタカイグチ
   ベニイグチ属:ベニイグチ
   ヌメリコウジタケ属:ヌメリコウジタケ
   イグチ属:コガネヤマドリ,ニセアシベニイグチ
   コショウイグチ属:コショイグチ
   クロイグチ属:アイゾメクロイグチ
   ヤマイグチ属:スミゾメヤマイグチ,ウラグロニガイグチ
   キアミアシイグチ属:モエギアミアシイグチ
   ヌメリニガイグチ属:ホオベニシロアシイグチ,クリイロニガイグチ,ヌメリニガイグチ,
             オリーブニガイグチ
   アワタケ属:クロアザアワタケ
オニイグチモドキ 撮影 河野茂樹 ヌメリコウジタケ 撮影 河野茂樹
コガネヤマドリ 撮影 河野茂樹 ウラグロニガイグチ 撮影 河野茂樹
モエギアミアシイグチ 撮影 河野茂樹 ホオベニシロアシイグチ 撮影 河野茂樹


スッポンタケ亜綱
 スッポンタケ目
  ヒメツチグリ科
   ヒメツチグリ属:フクロツチガキ
 ラッパタケ目
  ラッパタケ科
   ホウキタケ属:キホウキタケ

亜綱なし
 キクラゲ目
  キクラゲ科
   キクラゲ属:アラゲキクラゲ

 タバコウロコタケ目
  タバコウロコタケ科
   キコブタケ属:ネンドタケ

 サルノコシカケ目
  ツガサルノコシカケ科
   オオオシロイタケ属:アオゾメタケ,オオオシロイタケ
   ホウネンタケ属:ホウネンタケ
 シワタケ科
   シワタケ属:アラゲニクハリタケ,ニセニクハリタケ
 サルノコシカケ科
   シロアミタケ属:カワラタケ,チリメンタケ,ホウロクタケ
   チァミダレアミタケ属:チァカイガラタケ
   マンネンタケ属:オオミノコフキタケ
   シュタケ属:ヒイロタケ
   ミダレアミタケ属:ニクウスバタケ
   カイガラタケ属:カイガラタケ
 所属科不明
   ニクウチワタケ属:ニクウチワタケ
   シハイタケ属:ハカワラタケ

 ベニタケ目
  マツカサタケ科
   ミミナミハタケ属:イタチナミハタケ
  ベニタケ科
   ベニタケ属:チシオハツ,ケショウハツ,ウコンクサハツ
   チチタケ属:チョウジチチタケ,ハツタケ,ヒロハウスズミチチタケ,クロチチタケ?
ケショウハツ 撮影 河野茂樹

  ウロコタケ科
   キウロコタケ属:チャウロコタケ

シロキクラゲ菌綱
 シロキクラゲ目
  シロキクラゲ科
   シロキクラゲ属:ハナビラニカワタケ

子嚢菌門 子嚢菌亜門 ズキンタケ綱
ズキンタケ亜綱
 ビョウタケ目
  所属科不明
   ビョウタケ属:ビョウタケ
ビョウタケ 撮影 河野茂樹


チャワンタケ綱
 チャワンタケ目
  サルコソーマ科
   オオゴムタケ属:オオゴムタケ

フンタマカビ綱
ボタンタケ亜綱
 ボタンタケ目
  サナギタケ科
   サナギタケ属:サナギタケ

クロサイワイタケ亜綱
 クロサイワイタケ目
  クロサイワイタケ科
   クロコブタケ属:クロコブタケ
(※イ) 埼玉県生物研究会主催(秋の現地研修会)で何度か観察されたハラタケ属のキノコである。 当時指導なされていたト澤先生(埼玉きのこ同好会初代会長・故人)は、今井三子先生からオオモリノカサではないか?と聞いていた様である。 日本菌類誌2巻5号290頁、オオモリノカサ(大森笠茸)今井、モリハラタケ(森原茸)川村Agaricus silvaticus SCHAEFF.ex FR.と記載されているが、諸外国の文献や図鑑を見る限りオオモリノカサとは異なる種である。 埼玉の平地林を隈なく歩き、調べられている青木実氏の日本キノコ図版No.1337(1985年)、No.343(補足)に記載されているクズエノハラタケという種がこのキノコの特徴と一致している。 最も大きな特徴は、焦げ茶紫褐色の表皮が傘の展開と共にひび割れ白色の地肌が現れるが、黒紫褐色の燐片が傘周辺部まで同心円状に覆われている所である。 Agaricus inpudicusやザラエノハラタケの燐片の色は似ているが、クズエノハラタケの様に傘周辺部まで同心円状に分布する事は無い。 今年度は小川げんきプラザで採集した個体と、東武動物公園近くの山崎山で10数個体を見たが、何れも雑木林の落ち葉腐植層に栄養菌糸を伸長させている。 これまでに4回程培養した事があるが培養菌糸の伸びが遅い事、コロニー中の気中菌糸が多く、菌糸が灰白色に変色する特徴が有る。 灰褐色の動物の毛の様な燐片を持つ種にケモノハラタケ(Agaricus sp.)北陸のキノコ図鑑 カラー図版44 389が有るが、和名の様に燐片が動物の毛を思わせるような毛羽立った様子が見られる。 2005年の秋に神戸森林植物園の芝生で初めて出会った茸であるが、ケモノハラタケとは良い命名で有ると、感心した思い出がある。 西洋の茸図鑑には、Agaricus bohusiiという種が記載されているが、真にケモノを思わせる燐片である。余談であるが、2000年の夏に小諸懐古園の芝生上で鰐革様の傘を持つハラタケと出会った事が有った。 日本菌類誌の中に、ワニガワタケという記載が有ったのを覚えていたので本当に有るんだ!と大感激をした。 残念であったのは、雨に濡れて傷みかかっていた固体からは、何度培養してもバクテリアしか取れず、菌糸の純粋培養が出来なかった事である。 ワニガワタケに付いては、1939年日本隠花植物図鑑545頁Agaricus clcodilioides Y.KOBAYASI 日本固有種、北米産のAgaricus,crocodilinusに似たり。という記載が有るだけでその後の如何なる図鑑類にも登場してこない種である。 おまけに発表が命名規約に添わないので、正式に認められていない。ヨーロッパには、Agaricus berunardiiという種が記載されているが、鰐皮というイメージではない。 その後何処にも登場しない様な珍菌であっても純水培養菌糸が有り、芝生に出るような腐生菌であれば、栽培が可能であり、再現性が有る。 遺伝子の比較も容易である事などを考えると真に残念である。
 今回手持ちの文献や図鑑類で調べてみたが、きのこの種を同定する難しさや大変さを改めて感じた次第である。 西洋諸国では、19世紀の頃から大形なハラタケ属のきのこの分類が進められて来たせいか、同一種に様々な学名が付けられ煩雑であるが、ごく最近にハラタケ属をまとめた平易で解り易い図鑑が出たので紹介する。
The genus Agaricus in Britain Geoffrey Kibby August 2012
(※ロ) コテングタケモドキのツボは白色と記載されているが、今回、灰白色から灰褐色等濃色のツボを持つ個体が見られた。 各種の図鑑を見ると有色の物も見られるので、今後注意をして観察したい。
(※ハ) ) 大形のツルタケ型のきのこであるが、ツボ上皮の色がワインレッドであり、初めて見た種であった。 北陸のきのこ図鑑、カラー図版27(282)にツチイロオオツルタケ(Amanita sp.)という和名の原図がある。 この種の和名の由来は、黄土白色膜質鞘状のツボを持つことに由来する。 大舘さんと話している中でアカツボオオツルタケという名称がいいね。という場面もあった。 いずれにしても、地中深くに有るツボは、今後注意深く観察して行きましょうという結論と成った。
(※ニ) ) 外見は、スギタケに似ているきのこであるが、草地や林道脇の路傍等に発生し、培養菌糸が白色で伸びの早い菌糸である。 形態的にはスギタケに似ているが、スギタケやスギタケモドキは、菌糸の成長が大変遅く栄養成長や生態的には、ヌメリスギタケなどに近い種と思われる。 平成2年〜5年頃、熊谷農業高校の畑でマツオオジや各種の食用きのこの原木栽培を行ったが、埋め込んだ短木の周辺から沢山発生したスギタケ属のきのこであり、土中の埋もれ木や有機質を栄養源にして発生すると考えられる。
(※ホ) )日本きのこ図版No.330(シロケシメジモドキ)1985年、和名改称 ムレシメジ
(※ヘ) )日本きのこ図版No.748(ハダイロニガシメジ)縁シスチジア無し。No.1572(オオハダイロシメジ)大形で縁シスチジア有り。
(※ト) )アシボソシロシメジ 日本きのこ図版No.993(1〜3)青木実(3)の記載を見ると2種有る様である。 北陸のきのこ図鑑、カラー図版9、104(シロニオイシメジ)仮名Toricholoma sp.も同一のきのこである思われる。



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