■ キノコの成分(1) | ||
塩津 晋 |
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現在のように物流の活発でなかった、3・40年前迄、冬の間、乏しい食糧の補給に、東北の山国や日本海側の山里では、きのこは山菜と共に相当のウェイトを占めていたと思われます。しかし一般には、きのこは季節の香りや、独特の歯応えをもつ嗜好性の食品であったと言えましょう。 ところが、日本中が豊かになり、どんな山奥でも自動車の通る道さえあれば牛乳やコーラまで、いつでも手にはいり、冷蔵庫のおかげで好きな時に食べられるようになりました。それが、一面では、体位の向上や長寿をももたらしたことは否定できません。反面、癌、糖尿病、心疾患などのいわゆる文明病と言われる様々の側面をクローズアップさせました。山里の林業や農業の経営も国内事情に相伴って変遷し、急速に、栽培きのこの生産量、種類共に増え、都会の人が何時でも何種類ものきのこを選べるようになりました。 この現実は、広い意味での弛まざる自然への調和と言って良いのではないでしょうか。と言いますのは、欠乏の栄養学へのシフトの中で、単なる嗜好品に加えて、特に文明病に抵抗する健康食品としてのきのこの再評価であります。 そこで、キノコの成分について、できる限りあちこちの文献から拾い集め、これ迄必ずしも系統的でなかった全体像にアプローチしてみたいと思います。
(1) きのこの食品分析による成分表次表は、昨年改訂された日本標準食品分析表−4訂−から、7種の栽培きのこ、3種の天然もの、2種の加工きのこについて、乾物換算した表です。ナメコの水分がとび抜けて多いのは妥当かもしれませんが、天然物は採取エイジや気象条件などにより変動すると思われ、あまり固定的に受取らない方がよいでしょう。ともかく、とりたてのきのこは90%強が水分であると言えます。 |
キノコ成分表
(4訂 日本食品分析表より。水分を除き乾物中の割合)
成分(%) キノコ |
水分 | タンパク質 | 脂質 | 炭水化物 | 灰分 | |
糖質 | 繊維 | |||||
シイタケ(生) | 91.1 | 22.5 | 3.4 | 60.0 | 10.1 | 4.5 |
ナメコ(生) | ○96.0 | 27.5 | 5.0 | 55.0 | 7.5 | 5.0 |
エノキタケ(生) | 89.3 | 26.2 | 4.9 | 52.4 | 8.7 | 7.8 |
ヒラタケ(生) | 90.4 | 34.4 | 3.1 | 42.7 | 11.5 | 8.3 |
シロタモギタケ(生) | 90.4 | 36.5 | 5.2 | 41.7 | 8.3 | 8.3 |
マイタケ(生) | 91.0 | 41.1 | ○7.7 | 26.7 | 15.6 | 8.9 |
マッシュルーム(生) | 91,8 | ○47.6 | 6.1 | 29.3 | △9.8 | ○15.9 |
マツタケ(生) | 92,8 | 16.7 | 2.8 | 69.4 | 8.3 | 2.8 |
ホンシメジ(生) | 92.5 | 28.0 | 4.0 | 49.3 | 9.3 | 9.3 |
ハツタケ(生) | 95.5 | 22.2 | 2.2 | 64.4 | 6.6 | 4.4 |
キクラゲ(乾) | 13.7 | △10.4 | △1.2 | ○70.3 | 12.7 | 5.3 |
フクロタケ(水煮) | 91.4 | 31.4 | 2.3 | 39.5 | 12.8 | 14.0 |
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(2) タンパク質表を見ると、イメージ以上のタンパク質含量です。特にマッシュルームは約50%で、別の測定値では、マッシュルーム65%、ササクレヒトヨタケ60%、ハタケシメジ50%となっています。しかし、きのこの場合他の食品と違って、全部がタンパク質というわけにはいかず、注釈が付きます。注釈1として、キチン質の存在があります。一般的なタンパク分析上の算出方式として、窒素(N)含量に6.25をかけてタンパク含量としていますが、きのこはかび菌糸の集合体ですので、かびの細胞壁を構成しているキチン質に由来するNが必ず存在するのです。遊離アミノ酸を除去後のタンパク態アミノ基の分析と、キチンの構成単位であるグルコサミン含量とから出された真正タンパク質は、N含量からの算出値に対して少ない値となる。これが1/2〜1/3となるキノコに、スギヒラタケ、マツタケ、ムキタケ、ホウキタケ、コウタケ等があり、7〜8割とあまり差のない部類のきのことして、ナメコ、ヒラタケ、等の栽培きのこ類とサクラシメジ、ササクレヒトヨタケ等があります。 注釈2として、遊離アミノ酸の存在があります。きのこは他の食品と違った特徴として蛋白質構成のアミノ酸だけではなく、遊離のものとして、かなりの量が共存しているということです。遊離アミノ酸の総量は、ハラタケ科のきのこはどれも多く、マッシュルームで6%弱もあります。5%前後のものに、コガネタケ、アカヤマドリ、ムラサキシメジ、タモギタケ、エノキタケ等があり、美味しいと言われるホンシメジ、マツタケ、ハツタケ、それにヒラタケ、シロタモギタケも2〜3%と多い部類に属します。少ない方からあげれば、きのこの帝王タマゴタケ、マイタケ、キクラゲで、たしかに、後の2つは歯応えのきのこと言えます。興味深いことは、栽培きのこあh、同種の採集品より、タンパク含量で2倍位多いということです。 遊離の通常アミノ酸、タンパク質構成アミノ酸共、組成にグルタミン酸系(アラニン、アスパラギン酸等)が圧倒的に優勢という一定の傾向があり、概して必須アミノ酸、環状アミノ酸が少ないのです。 注釈3として核酸系成分があります。乾シイタケなどの旨味成分としてグアニル酸が有名です。これも非タンパク性の多窒素成分で、計算上のタンパク含量をなにがしか多く見せかける要因になっています。 余談ですが、呈味成分であるグアニル酸やアミノ酸、後で述べる有機酸等は、いずれも水に溶けますので、味を生かす為には、ゆでこぼしたり、長時間水に漬けるのは得策でないわけです。 以上、きのこの真のタンパク含量については、分析表の栽培きのこの数字を7〜8掛けしたものということです。 そうしたことを加味してもタンパク含量の高いきのこは、やはりササクレヒトヨタケ、マッシュルーム、ハタケシメジなどで、これらは畑の肉と賞用される大豆より含量が多く、アミノ酸構成による栄養評価の指標でありますプロテインスコアを比べると、同等以上の値を示すきのことして、食用40種中、ヒラタケ、ナラタケ、ナメコ、ホウキタケが見いだされます。 尤も、きのこの今日的な健康との関わりは、その栄養価にあるのではなく、次号に予定しております炭水化物(糖質)に、際立ったアクセントがあるのです。 (1961.6.14)
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