■ 済州島を訪ねて | ||
佐藤俊朗(与野市) |
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台風が東支那海に停滞し、雨模様の済州島空港から宿舎に向かう。関東から4人、広島から9人、鳥取・山口を入れて日本からは総勢21人であった。 翌朝9時出発、「はちまき道」といわれた第二横断道から国立公園に入り、標高900mの地点に達する。 済州島は火山活動で形成された火山島で、韓半島で最大、長軸が73km、短軸が31km、面積1825平方kmの楕円形をなし、中央に1950mの漢拏山が居座っている。楯状火山の地形で堆積岩類で構成され、一部海岸地域を除いては島全体が火山岩類で特異の火山地形も見られる。気候は亜熱帯気候から亜寒帯気候にいたる垂直分布をあわらしている。年間雨量は本土よりやや多く土壌は酸性茶褐色山林土と火山稀岩砕土とからなる。南斜面と北斜面に水系が発達し、とくに南斜面は峡谷を作れず河幅が広い。河の水が伏流水となって「乾川」をなしいてるところが多い。 植物は約1600余種、植生分布は温帯落葉樹林帯から寒帯針葉樹林帯まであり興味ぶかい。日本の屋久島に似ているが、すべての点で大きくゆるやかな雰囲気が感じとられる。 漢拏山への登山は許可を要し、山頂は立ち入り禁止と聞いている。まして、菌類採集ということは容易なことではない。「日韓合同採集会」ということで、両国がそれぞれバス一台に分乗して国立公園の林内に入り、5時間にわたって採集できることは、誠に幸せなことであった。 林道から少し入った空地で形どおりの儀式があった。韓国、続いて日本、それぞれの菌学会会長の挨拶がありガイドが通訳をする。続いて、韓国の担当者が地図と資料を配付、地形や採集についての注意がある。顔つきが似ている上に採集道具やカメラを持っているので親近感が湧いてくるが言葉が通じない。 霧が深く視野は100mぐらいだろうか。緑あざやかで深山を徘徊する気分である。採集に入った温帯落葉樹林帯ではアカシデ類・ブナ類・ヤマザクラ類が多く、チョウセンシラベ等の針葉樹林が散在していた。草本ではアマドコロ・クレ竹・天麻等が分布している。日本でよく見かけるフキやイラクサなどは少なく、コンニャクの仲間が自生していた。下草の状態は非常によく日本にも見られるきのこが殆どである。 オオキツネタケ、サクラタケ、ツエタケ、ヒナノガサ、カバイロツルタケ、ドクツルタケ、ザラエノハラタケ、ウラベニガサ、センボンイチメガサ、ニガクリタケ、キショウゲンジ、アカヤマドリタケ、ニガイグチモドキなど30種類近く採集できた。指定されたエリアの中でさえ地形は変化に富んでいる。不安を感じながらも一人で深入りした川幅2mぐらいの渓流を進んだところに、マツやモミのすばらしい林があり、下草のない絶好の地域を見つけた。そこには手つかずのタマゴタケやガンタケの美しい群生が見られ、数本づつていねいに持ち帰った。 4時前に集合地に舞い戻り周囲を散策すると国立公園といいながら、あまり手入れのよくないシイタケの榾木があちこちに積み上げられていることに気づいた。きのこ博物館があるというので行ってみた。何のことはない20坪ぐらいの木造平屋に50点ばかり、液浸標本とその写真が展示され、漢拏山の菌類相について説明されたポスターがあったがハングル文字では如何ともしがたい。 帰還すると直ちに車庫に向かい採集品を広げて観察と同定に入る。日韓合わせて50名ぐらいで混雑したが、写真を撮ったりメモをしたりする人は少ない。採集品の中ではいちばん美しいと自負したタマゴタケとガンタケは殆ど注目されなかった。韓国では天然きのこに対しての関心が可成り低いのではないか、あるいはありふれたきのことして無視されたのだろうか。どうも混雑の割には熱気が感じられなかった。余談になるが数年前、カナダとスイスできのこを採集したが種名がはっきりっせず大した勉強にはならなかった。今回は、学名一覧を手帳にまとめて持参し、韓国の学者先生に訊ねようと思っていた。しかし、長沢栄史氏が手際よく片っ端から同定して学名を記載、日本の和名までつけてくださった。青島清雄先生が欠席で固いきのこの同定がやや不充分のようであったが、韓国の学者先生は遠慮してか積極的には動かなかったように思われた。 韓国の方々といろいろ話そうにも言葉が全く通じない。しかし、手元においている韓国菌類図鑑が記念に欲しいという気持ちになる。片言の英語で話すと何とか通じた。 「代金を頂いて後日送ってもよいが、できれば手持ちの日本の図鑑と交換したい」というのである。得たりとばかり山渓のフィールドブックス「きのこ」と「韓国菌類図鑑」1988年版とを、署名し合って交換したことは言うまでもない。著者の李址烈氏は東京教育大学で学位をとり日本語に堪能な方で、韓国菌学会及び植物分類学会の会長を歴任され、当日は会場に見えていたが静かに全体を見渡しておられたようである。 この日同定された「菌類」と、趙徳×氏による「漢拏山の菌類目録」とを数値で比較すればつぎのようになる。(数字は当日採取された数、( ) 内は趙氏の目録に記されている数)
ヌメリガサ科0(3)
広島の山崎雅永さんの記録によれば、同定された種は58種、その内訳はハラタケ類39、ヒダナシタケ類10、腹菌類6、子嚢菌類3である。 Laccaria bicolorオオキツネタケ、Oudemansiella radicataツエタケ、Gerronema fibulaヒナノガサ、Collybia Kumma、Asterophora lycoperdoidesヤグラタケ、Amanita esculentaドウシンタケ、Boletus speciosusアカジコウ、Tylopilus rigensオクヤマニガイグチ、Leccinum griseumスミゾメヤマイグチ、Leccinum scabrumヤマイグチ、Russula nigricansクロハツ、Russula neoemeticaドクベニダマシ、Russula alboareolataヒビワレシロハツ、Coltricia cinnamomeaニッケイタケ、Hymenochaete mougeotiiアカウロコタケ、Steccherinum rhoisアラゲニクハリタケ、Merulicopsis coriumカワシワタケ、Stereum ostreaチャウロコタケ、Exidia glandulosaヒメキクラゲ、Pseudohydnum gelatinosumニカワハリタケ、Calocera viscosaニカワホウキタケである。
済州島を一度訪れただけで素人の私が云々するのはどうかと思うが、この事実から韓国の天然きのこに対する関心は可成低いのではないか、そして分類などの研究も遅れているのではないかと推測させられる。採集された種類が少なかったことは時期の関係であり、林相や降水量などからみて最盛期にはまだまだ多種大量の菌類が産出される宝庫であると思われた。 |