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1 はじめに
熊谷市立図書館では、毎年夏休み子どもたちを対象にした自然科学展を開催しています。今年のテ−マは、「きのこのすべて」と題して7月22日から8月30日までの期間、きのこの写真、標本等の展示の他、きのこの勉強会が熊谷市立図書館で開催されました。
この自然科学展には埼玉きのこ研究会、県立自然史博物館、県立熊谷農業高校、さらには会員の大屋道則さんも標本出品で協力しましたのでご紹介します。
なお、会期中の入場者は9,126名でしたので、あわせてご報告します。
2 自然科学展
自然科学展の展示会場には、きのこの標本や写真、そしてきのこのキャラクタ−の数々のグッズに至るまで、きのこをいろいろな角度から展示し、きのこと私たちとの関わりについて幅広い展示内容でした。主な内容を一部ご紹介します。
- きのこの生活及び、役割等を詳しく解説した説明文ときのこの写真、標本等の展示
- きのこの見分け方や、食毒の区別等についても解説文と写真、標本等で詳しく説明した展示
- きのこの栽培では、福島隆一(副会長)さんの指導で県立熊谷農業高校がハナビラタケの人工栽培で全国大会で優勝した時の状況やその研究過程の展示、またマツオウジの人工栽培の研究過程も展示。さらに、シイタケや、ナメコ、等の人工栽培方法をも展示紹介した。
- きのこキャラクタ−グッズでは、きのこの形をした時計、きのこキ−ホルダ−、きのこティシュなど
- いろいろな形と色をしたきのこや、毒きのこ、今話題の虫から発生するきのこ(冬虫夏草)きのこの上にきのこを作るヤグラタケなど
(自然科学展見学者の感想文より)
自然科学展は、毎日多数の見学者があり、その時の感想文の一部をご紹介します。
- きのこが良くわかった、すばらしかった、たのしかった(大多数)
- きのこに似た人がいた、なぜワライタケがない
- 毒きのこがあってこわかった、気持ちワルーイ
- その他多数ありました(省略します)
3 やさしいきのこの勉強会
自然科学展期間中の8月3日(日)には、埼玉きのこ研究会主催による「やさしいきのこの勉強会」が開催されました。
勉強会の主な内容は
1) 初心者のための入門口座、
2) きのこ百科についてスライドの鑑賞、
3) 顕微鏡によるきのこ胞子などの観察、
4) きのこの見分け方と同定、
5) 参加者の持参したきのこの同定などでした。
当日は天候も良く、真夏日となったが小学生から年配の方まで大勢の人が参加し、大盛況のうちに行われました。勉強会は、午前と午後の2回行われましたが会場の後ろの方で立ちながら聴講されていた人もいました。
きのこ勉強会は吉田考造さんの司会により進行し、会長の塩津 晋さんの挨拶がありました。挨拶では、今日の勉強会の概要や、埼玉きのこ研究会の紹介等がありました。
(1)スライドによるきのこのお話 (福島隆一さん)
自然界の生物には、動物、植物の他に菌類があることを説明し、きのこは菌類に含まれ、きのこの見分け方は、肉眼的、味や臭い、手で触った感触の他に顕微鏡等で観察してきのこを同定することなどの説明がありました。そのあと、スライドを使ってきのこの特長等について説明がありました。
1 タマゴタケとベニテングタケの比較
名前 | タマゴタケ | ベニテングタケ
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分類 | テングタケ科 | テングタケ科
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カサ | 赤色 一色 | 赤又はオレンジカサの上に白色の破片を付ける
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柄 | 黄色地にオレンジのダンダラ模様 | 白色 一色
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ツバ | オレンジ色 | 白色でスカ−トのようです
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ツボ | 白 一色 丈夫でかけにくいので残る | 白 一色 こわれやすくツボの形がなくなる
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発生場所 | 広葉樹の他ツガ、モミ林の地上に発生 | シラカンバ類の林内地上に発生
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食毒区別 | 食べられる | 食べられない 毒きのこ 毒成分はムスカリン(神経毒)
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(きのこの姿の説明図3枚-- 略 --)
2 一般的なきのこ
- マツタケ
- (キシメジ科:担子菌) 赤松に出たきのこ 場所は十文字峠 コメツガに出るきのこは大きなものがある (食用きのこ)
- ムラサキシメジ
- (キシメジ科:担子菌) 紫色のきれいなきのこ 秋、雑木林に輪になって発生 晩秋に出る大型のきのこ(食べられるきのこ) 生で食べると中毒する
- ハルシメジ
- (別名シメジモドキ) (イッポンシメジ科:担子菌) 春5月連休頃梅林に発生 弱い粉臭がある この仲間はたくさんある 6月下旬以降は食べないように(食べられるきのこ)
- ウラベニホテイシメジ
- (イッポンシメジ科:担子菌) きのこを分解した写真 カサの裏にヒダが有りここに担子器がある。担子器に胞子を付ける (食べられるきのこ)
- アカヤマドリタケ
- カサの直径20cm、重さ500g カサの色は黄褐色、手で触ると黄色くなる カサの裏は管孔でここに胞子をつくる。このきのこは植物から栄養をもらって育つので大きくなる
- アミガサタケ
- (アミガサタケ科:子のう菌) 春先連休前に竹やぶで出た 頭の部分が凹んで黄色 凹んだ部分に袋(子のうと言う)のような中に8個の胞子を作る。この胞子は風に乗って飛ばされ子孫を増やす
- その他のきのこ
- その他にホシアンズタケ、ホウキタケ、コガネタケ、トガリアミガサタケ、ハナイグチ等がありました
3 人工栽培可能なきのこ
- ハナビラタケ
- (コウヤクタケ科:担子菌) 人工栽培に成功し、全国大会で優勝し文部大臣賞に輝いたきのこ。カラマツに植菌し温度管理を20℃位に保った クセの無いさわやかなおいしいきのこ 酢の物、揚げ物等(食べられるきのこ) 天然ではカラマツ林に発生
- マツオウジ
- (ヒラタケ科マツオウジ属:担子菌) 赤松で人工栽培成功未発表 パルプ(紙の原料)でも可 約1ヵ月で人工栽培可能 松の樹脂のような臭い有り シイタケよりしっかりしていて歯ざわりがよい
- ヌメリスギタケ
- (モエギタケ科スギタケ属:担子菌) カサの部分にトゲの生えたようなもの、原木はコナラの木で人工栽培したもの、ヤナギの木やビン栽培でも可能 天然は秋早い時期9月中旬 カサ、柄ともヌメル(食べられるきのこ)
- ヤマブシタケ
- (別名ハリセンボン)(ハリタケ科サンゴハリタケ属) 白い部分に胞子を付ける 時間がたてば白い粉が肉眼でも観察できる 細い針が長くなり、針の先端に白い粉(胞子)が付く コナラの木で人工栽培(食べられるきのこ)
- キツネノタイマツ
- (スッポンタケ科) 綿に水を含ませて植菌 上の黒い部分に胞子を付る クサイにおいを出して虫を集め、虫に胞子を運ばせて子孫を残す (食用不適)
- その他のきのこ
- その他に、タモギタケ、ナメコ、シイタケ、マンネンタケ、ツエタケ等が有ります
4 変わったきのこ
- ヤグラタケ
- (キシメジ科ヤグラタケ属) キノコの上にきのこを作る変わったきのこ クロハツの上に白色で小さいきのこ ベニタケ科の老熟したきのこの上に発生する
- ジンガサタケ
- (ヒトヨタケ科:ジンガサ属) 馬フンの上に発生する 胞子は真黒色 馬フンの上にできるきのこは他にヒカゲタケ、ツヤマグソタケ等がある 馬フンからでるきのこは食べないように。但しマッシュル−ム(ツクリタケ)は食べられる
- ムジナタケ
- (ヒトヨタケ科:ナヨタケ属) 芝生にできるきのこ 芝生を腐らせる腐朽菌 胞子が黒いため、黒い汁がでる 食べられるがおいしくない
5 勉強会当日参加者が持参したきのこ
- シジミアミタケ
- シジミのようなカサの形
- ベッコウタケ
- (サルノコシカケ属) ニセアカシヤの木にでる 木の内側が食われ綿状になる。木の繊維質を酵素により木を溶かす
- ホコリタケ
- (ホコリタケ科ホコリタケ属)(別名キツネノチャブクロ) 夏から秋にでるきのこ
6 その他のきのこの説明
- フクロツルタケ
- (テングタケ科) 広、針葉樹林に散生する ツボがあり、ツバはない カサにツボの破片を付ける 菌根菌
- ナラタケモドキ
- 柄は硬い、ツバはない 根状菌子、消火不良を起す 根が緑色に光る 高感度カメラで観察するとよくわかる
- ドクササゴ
- (別名ヤケドキン) 落葉分解菌 毒きのこで手足がしびれる ササヤブ等に発生
(図7枚 --略--)
(2)顕微鏡観察によるきのこのお話 (吉永 潔さん)
1. 生物三界説
生物には動物と植物があります。きのこは動物のように動かないので植物として考えられていました。
もともと、菌とは「くさびら」と読んできのこを意味していた言葉です。顕微鏡の発達に伴い、細かいものが見えるようになり、目に見えなかった生き物が見え始めて細菌と言われました。そこでカビやバクテリヤ(細菌)をひっくるめて菌類と呼ばれるようになりました。
このように、生物には動物や植物の他に菌類が含まれることにより、最近では生物三界説が妥当と考えられています。
2. きのこはやわらかいもの
きのこの仲間として、色や形の他に表現出きるとしたら、きのこの仲間は「やわらかいもの」と表現できるのではないでしょうか。
きのこの細胞を、顕微鏡で観察すると丸い(球形や細長い円柱状)もの同士の結合として見えます。
テングタケのツバの細胞は、このように(顕微鏡映像)球形細胞です。球形の細胞と細胞の間にはすき間があります。ところが、植物のソラャ≠フ葉の部分や筋肉細胞を顕微鏡で観察すると、このように(顕微鏡映像)複雑な細胞が結合されていて細胞間にはすき間が有りません。このように、動物や、植物の細胞はすき間がなく、結合されています。
しかし、きのこは細胞同士の間はすきまだらけです。なぜ、すき間だらけなのか。これは食生活の違いに起因するものと考えられます。
動物や植物と菌類の栄養の取り方がちがうからです。動物は、エサを口から身体の中へ吸収する(エサを食べる)。植物は、養分を根から吸収し、栄養は葉緑素で光合成によって作られ成長します。しかし、菌類はエサ(食べ物)の中へ菌糸が入り込んで栄養を吸収し、成長します。
このように、きのこは動物や、植物と違った食生活により成長してゆく点が特長です。したがって、きのこの細胞同士にはすき間が多く、やわらかく感じられます。
3. きのこの細胞について
よく、きのこは柄(茎)が縦に裂けるきのこは食べられると言うのは真っ赤な嘘。迷信は信じないように注意してください。
毒きのこには、縦に裂けるきのこが多い。ベニタケ科のきのこは、縦に裂けないが、迷信とは逆にこの科のきのこには、毒きのこは少ない。これらの迷信のいっていることは、ただ単なる細胞の形の違いによって起こることですから、何の根拠も無いことで、細胞の形と毒が関連しているとはどなたも思わないでしょう。
4. きのこの分類について
きのこは大きく分けて担子菌と子のう菌が有ります。担子菌は、ヒダのところに担子器と言う細胞があり、担子器の先端に担子胞子(通常四個の胞子)を付けます。
子のう菌は、子のうと言う袋の中へ子のう胞子(通常8個の胞子)が入っています。
(3)きのこQ&A
当日、参加者からいろいろな質問が出ましたので一部紹介します。
Q :マツタケは埼玉に有りますか。
A :埼玉にも有ります。先程のスライドのマツタケは十文字峠の埼玉県側です。
Q :きのこの保存法にはどのような方法が有りますか。
A :乾燥保存法、塩蔵保存法、ビンズメ保存法、缶詰保存法等が有ります。冷凍保存法(会員の声)はきのこをさっと湯がいて、ゆで汁ごとポリ袋に入れ冷蔵庫で、冷凍保存します。
Q :食べられるきのこと、毒きのこではどちらが多いですか。
A :食べられるきのこの方が多い、毒きのこは少ない。食べられないきのこは相当数有ります。
4 おわりに
最近は、きのこ人口も増加し、きのこに関する知識を必要とする方が増加しています。今回の自然科学展に参加された方はきのこの知識を理解する上では重要な意義があったのではないでしょうか。各会員の努力により、きのこの写真や、標本の蓄積は財産であります。この貴重な財産を有効に活用し、自然科学展に協力し、素晴らしい成果を上げた事だと思います。
また、勉強会当日、各会員さんがきのこを採取してきて、きのこの同定及び展示説明をしたり、また、当日は暑い1日でしたが裏方では会員の方が冷たい飲み物の接待をする等大変なご苦労があったからこそ勉強会も成功したのではないでしょうか。
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