■ 美の山でフサハリタケを採取 | ||
大舘一夫(杉並区) |
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1999年7月25日に埼玉県秩父郡美の山で実施された本研究会の観察会において著者の採取したキノコが、これまで青森県で2回採取されたのみであるフサハリタケCreolophus
cirrhatus(Pers.:Fr.)P.Karstenであることが判明したので報告する。 採集時の状況 ![]() 肉眼的特徴 傘の大きさは20-25pの貝殻形で、柄はなく切り株の側面から直接傘が張り出し、基部では3個が癒着し棚状に重なって発生。全体が白色からクリーム色、上面は粒状、刺状の鱗片で覆われ、周辺ほど鱗片が長く 3-5oの粗毛状。下面は10-20oの細長い針が密生。肉は白色で厚く弾力があり吸水性。味・臭い無し。 顕微鏡的特徴 ![]() 胞子:類球形・広楕円形、表面は平滑、2.8 -4.2μm。無色、メルツァー液で灰青紫色になりアミロイド。 担子柄:4胞子型、こん棒形で下方が屈曲、基部にクランプあり。大きさ4.0-5.0×20- 30μm。非アミロイド。 シスチジア:内容物に富むグロエオシスチジアでこん棒型、先端が突出し途中2-3個所括れ下方は細まる。大きさは4.2-5.0×30μo以上、非アミロイド。 子実層托実質:一菌糸型でクランプあり、非アミロイド。 傘表面の鱗片の菌糸:一菌糸型、クランプを有する円筒状の菌糸、幅4.0-5.6μm。グロエオシスチジアが混入する。非アミロイド。 同定 上記の肉眼的特徴および顕微鏡的特徴が、別記文献に記載された特徴に一致することより、このキノコをフサハリタケと同定した。また、フサハリタケを日本新産種として発表された工藤伸一氏に標本を送り同定を依頼したところ、間もなく氏からフサハリタケであるとの報を頂いた。 フサハリタケ Creolophus cirrhatus (Pers.:Fr.) P.Karsten フサハリタケについて別記文献を引用し若干の紹介をしておく。日本での採集報告は前述の工藤氏(1990)と菅原光二氏(1991) の2度のみで、いずれも青森県の八甲田山麓のブナ林におけるブナの倒木上に発生したものである。ヨーロッパ、北アメリカなどには広く分布し、各種広葉樹の枯幹、生立木の傷い部などに発生する白色腐朽菌で、発生樹種は広範の属に渉っている。子実体の形状と生態は、ヤマブシタケ、サンゴハリタケ、ブナハリタケ、エゾハリタケ、アセハリタケなどに類似するが、ヤマブシタケとサンゴハリタケは張り出した傘を作らず、他の3種は明瞭な傘を作るが、ブナハリタケは傘表面が無毛平滑、エゾハリタケは肉質が比較的強靭、アセハリタケは針が短い。また顕微鏡的特徴では、担子胞子が広楕円形でアミロイド、子実層にグロエオシスチジアがある。肉の菌糸が非アミロイドなどがあげられ、上記類似種にはこれらの特徴を併せ持つものはない。また、フサハリタケは上記の顕微鏡的特徴により定義されるHericiaceae(サンゴハリタケ科)の Creolophus(フサハリタケ属)に所属する。 謝辞 本稿作製にあたり、標本を同定いただいた工藤伸一氏、原稿の添削指導を頂いた福島隆一氏、文献の提供ならびに工藤氏への同定依頼等ご協力頂いた伊藤進氏に、厚く感謝いたします。 参考文献 長沢栄史・工藤伸一.1992.日本新産Creolophus cirrhatus(フサハリタケ―新称)について.菌蕈研究所研究報告30 :69-74. 本郷次雄(監修).1994.山渓フィールドブック10「キノコ」,215,山と渓谷社,東京 本郷次雄(監修).1998.青森のキノコ,206, グラフ青森青森. 城川四郎.1996.猿の腰掛け類きのこ図鑑, 49,地球杜,東京. Phyllyps, R.1981. Mushroom and other fungi of Great Britain and Europe, 247 Breitenbach,J. and Kranzlin,I. 1986. Fungi of Switzerland 2,238. Bahncke,R.M. 1993.1200 Pilze in Farbfotos,1039. |