■ 1998年以降新たに日本のきのこフロラに加わった新種と新産種 | ||
a | 1998年以降に出版された菌蕈研究所研究報告, No.36と日本菌学会誌(日菌報39 & 40;Mycoscience 39 & 40)に掲載された新種および新産種を紹介する。なお、上記菌蕈研 報の前川二太郎さんの「日本産コウヤクタケ科の分類学的研究(英文)」については省略させていただく。なお、顕微鏡的特徴を図示したイラストや写真を含めた記載文が掲載されいるオリジナル論文およびそのコピーが博物館にありますので、必要な方はお問い合わせ下さい。 ◎工藤伸一・長沢栄史 1998. 日本新産種 Tricholoma cingulatum (ツバササクレシメジー新称)について.Rep. Tottori My-col. Inst. 36: 16-20. 1. Tricholoma cingulatum (Almfelt ex F.:Fr.) Jacobsch ツバササクレシメジ(新称). 傘は径25-75(-90)mm,繊維状で灰白色〜灰褐色を帯び,成熟するにつれて細かい鱗片状のささくれを生じる.柄は30-65(-90)×5-10 mmで,顕著な膜質永続性のつばをもったキ シメジ属のきのこである.また,胞子が長楕円形で,4-6×2.5-3.5 ミクロンと小形であ ることも特徴の一つとなっている.現在,青森や北海道で,しかもヤナギ属の樹下に発生している.発生時期は10月中旬から11月下旬. ◎本郷次雄 1998. 3種の日本新産ハラタケ目菌類について.Rep. Tottori Mycol. Inst. 36: 13-15. 2. Collybia distorta (Fr.) Quel. モリノツエタケ 1974年7月,鳥取市古郡家のコナラアカマツ林内に発生したもの. 傘は径5-10 cm,まんじゅう形から平に開き,しばしば中丘をそなえる.表面は平滑, 帯赤黄褐色で粘性はない.肉はわずかに褐色をおびる.ひだは白色,密,ほぼ湾生,縁部は鋸歯状で褐色のシミを生じる. 柄は高さ約9cm,太さ約8mm,傘より淡色で縦線があり,しばしば捩れている.胞子は球形で非アミロイド,3.5-4×2.7-3.2 ミクロン.担子器は4胞子をつけ,17-22×4-4.5 ミクロン.菌糸にはクランプがある. 夏〜秋,林内腐植上,または樹木の古い切り株上に発生する. アカアザタケ C. maculata に近縁であるが,後者は若いとき全体がほとんど白色で, しだいに赤褐色のシミがあらわれる. 3. Cortinarius pistorius J.Schaeff. ヤケイロフウセンタケ(新称) 1987年10月,滋賀県高島郡朽木村(朝日の森)のアカマツコナラ林内に発生したもの. 傘は径6-8 cm,まんじゅう形からほぼ平らに開き,湿っているとき強い粘性がある.表面はやや繊維状で肉桂色ないしタン皮色,周辺部はオリーブ色を帯びる.若い個体では白色繊維状のやや不明瞭の外被膜の裂片をつけている.肉は厚く,淡紫色,味,臭いともに温和(外国書によれば焼いたパンの臭いがあるという).ひだは上生し密またはやや密,淡紫色のち胞子が熟せば肉桂色ないし銹色となる.幅は5-6 mm, 縁部は細かい波状. 柄は高さ5-6.5mm,太さは頂部で1.3-1.6 cm,下部は急にそろばん玉状にふくらみ径2.5-3.2 cm. 上部は円柱状で,表面は絹状〜繊維状,淡青紫色を帯びる.根元の膨大部は白色〜帯黄色,のち帯褐色となる.クモの巣膜は白色のち銹色となり,多量に存在する.胞子は顕微鏡下で銹黄褐色を呈し,楕円形で表面は大小の疣状突起におおわれ,9-12×6-8 ミクロン.担子器は23-30×10-12.5 ミクロン,4胞子をつける. 秋に広葉樹林内地上に発生する. (特徴)傘が肉桂色で周辺がオリーブ色を帯びている.柄や若いひだが淡紫色を呈する.大形の胞子を有する. 4. Cortinarius distans Peck. ヒロハフウセンタケ 1974年75年10月,滋賀県大津市千町のアカマツコナラ林で採集されたもの. 傘は径2-5 cm,円錐形〜鐘状,のち開いて周辺部はまんじゅう形からほぼ平らとなるが,中央部には円錐形に突出した中丘をそなえる.表面は粘性なく肉桂色〜粘土色,微細な鱗片状を呈する.肉は傘の中央部では厚くて帯褐色,味,臭いともに温和.ひだは直生または湾生し,疎,胞子は熟せば銹色〜肉桂色となる. 柄は高さ2-8 cm,太さは5-12 mm でほぼ上下同径,表面は繊維状,褐色を帯びる.外被膜は柄の上に,不完全な白いつば状となって残る. 胞子は顕微鏡下で銹黄褐色,卵形〜楕円形で表面は小疣におおわれ,7-8.5×4.5-5.5 ミクロン.担子器は4胞子をつけ,22-27×6.5-8.5 ミクロン.縁シスチジアはこん棒状 形または円柱形,薄膜,17-27×4-7.5 ミクロン.ひだ実質菌糸にはクランプがある. 夏〜秋,林内広葉樹下に発生. (特徴)小ないし中型菌で,傘は円錐形,ひだは疎生する. ◎宮本敏澄・五十嵐恒夫・高橋邦秀 1998. 日本新産種, Collybia biformis ヤマジノカ レバタケ(新称)と C. pinastris ニオイマツオチバタケ(新称)について.(短報).Collybia biformis and C.pinastris new to Japan. Mycoscience 39:205-209. 5. Collybia biformis (Peck) Singer ヤマジノカレバタケ(新称) 傘の直径が8-22 mm でまんじゅう形から平らにひらくか,さらに縁部が反り返り漏斗形となる.表面は無毛で赤茶色.肉は薄く,味,においとも温和.ひだは密で直生し,しばしば襟帯を形成する. 柄は 23-43×1.2-3 mm ,丈夫で毛に覆われ,中空. 針葉樹林や針広混交林の落葉,あるいは未舗装の林道上に群生あるいはやや束生する.北アメリカで知られていた種. 6. Collybia pinastris (Kauffman) Mitchel & Smith ニオイマツオチバタケ(新称) 傘の直径が 4-16 mm でまんじゅう形から中高の平らに開く.表面は無毛で赤茶〜淡褐 色,中央部が濃色あるいは全体に淡褐色.肉は薄く,しばしば特有のにおいがある.ひだはやや疎で直生からやや垂生する. 柄は、20-38×1-1.5 mm ,丈夫で毛に覆われ,中実.褐色の菌糸束が発達する. アカエゾマツ,ヤツガタケトウヒ,ヨーロッパトウヒの落葉,まれに球果に多数群生する.これまで北アメリカで知られていた種. ◎宮本敏澄・五十嵐恒夫・高橋邦秀 1998. ホウライタケ属の日本新産種3種について( 短報). Three species of Marasmius new to Japan. Mycoscience 39:211-216. 7. Marasmius glabellus Peck シワオチバタケ(新称) ミヤマオチバタケ M. cohaerens (Pers.: Fr.) Cooke & Quelet に似るが,傘が黄褐色で,初めは滑らか,後に深い放射状の溝が生じる点と,子実層に剛毛が存在しないことなどから区別される. 8. Marasmius pallidocephalus Gilliam ヒメオチバタケ(新称) オチバタケ M. androsaceus (L.:Fr.) Fr. に似るが,傘の色が幼時から淡褐色で縁シスチジアを欠き,柄表皮の菌糸は殻被で覆われる. 9. Marasmius wettsteinii Saccardo & Sydow ユキヒメホウライタケ(新称) シロヒメホウライタケ M. rotura (Scop.:Fr.) Fr. に似るが,M. rotura は主に落枝や倒木などの材上に発生するのに対し,本種はモミやトウヒ属の落葉から発生し,老成前の傘の色はほぼ純白である. ◎宮内信之介・小林久泰 1998. 日本で見つかったフウセンタケ属ウスフジフウセンタケ節の新種(短報). A new species of Cortinarius Sect. Sericeocybe from Japan. Mycoscience 39:333-335. 10. Cortinarius prunicola Miyauchi et His.Kobayashi sp. nov. ウメウスフジフウセンタケ(新称) 春から初夏にかけて,中部日本から西日本にかけての梅林内地上に発生するフウセンタケ属の未知種と言われていたもの.子実体は若い時淡紫色で,成長すると橙褐色を帯びてくる.傘は湿時,わずかに粘性をおびるが,吸水性はなく,乾時,しばしば絹糸状の外観を示す. 柄は粘性を帯びない.ひだは若い時淡紫色を帯びる.肉は無味であるが,強い刺激臭を発する.胞子はやや丸みのある楕円形で,いぼ状突起をそなえる.上記の特徴と春の梅林のみに発生する. ◎宮本敏澄・五十嵐恒夫・高橋邦秀 1998. 北海道のトウヒ属の森林から採集されたクヌ ギタケ属の日本新産種3種について(短報).Notes on three species of Mycena new to Japan from Picea forests of Hokkaido. Mycoscience 39:337-342. 11. Mycena aurantiidisca (Murrill) Murrill オウバイタケ(新称) 橙黄色の傘と淡黄〜白色の柄を持ち,顕微鏡的形態はコウバイタケ M. adonis (Bull.: Fr.) S.F.Gray。北アメリカだけから知られていたが,北海道のアカエゾマツやヨーロッパトウヒの落葉上に発生する. 12. Mycena clavicularis (Fr.) Gillet エヌメリタケ(新称) 全体に灰色で傘は滑らないが,柄は滑る.日本既知の類似種とは縁シスチジアの形態で区別される.北海道では特に夏の雨後,アカエゾマツの落葉上に群生する. 13. Mycena oregonensis A.H.Smith クチバタケ(新称) 全体にオレンジ色で,老成しても退色しにくく,柄シスチジアに黄色の色素を有する点が特徴.アカエゾマツの落葉上に発生するが稀な種である. ◎塚田哲丸 1998. 日本新産種 Leccinum variicolor について.日菌報 39: 57-59. 14. Leccinum variicolor Watling var. variicolor アオネノヤマイグチ(新称) ヤマイグチ近縁種で,ヨーロッパに分布し,日本ではカンバ類樹下に発生し,未知種と言われていたもの.切断すると,傘と柄の上部の肉が淡い赤色に変色し,柄の基部が緑青色に変色する.柄の基部の表面は黄緑〜青緑〜青味を帯びる. 近縁種との比較は ○イロガワリヤマイグチ:肉は赤変のち徐々に黒変.柄の基部で青変しない.シイ,アカマツ,コナラ林 ○スミゾメヤマイグチ:肉は赤変のち徐々に黒変.柄の基部で青変しない.シデ林 ○ヤマイグチ:肉に変色性なし(時に僅かに桃色).傘も淡色.カンバ林. ◎高橋春樹 1999. 日本産クヌギタケ属コガ ネハナガサ節の一新種及び日本新産種 Mycena spinosissima. Mycena auricoma, a new species of Mycena section Radia-tae from Japan,and Mycena spinosissima, a new record in Japan. Mycoscience 40:73-80. 15. Mycena auricoma H.Takahashi sp. nov. コガネハナガサ(新称) 外観的、顕微鏡的特徴から,本属に属するが,ヒトヨタケ型の子実体を形成し,傘が平 開すると一晩で萎れる特異な性質をもつ. 16.Mycena spinosissima (Singer) Desjardin トサカオチエダタケ(新称) 熱帯〜亜熱帯地域に分布し,北半球温帯域での記録ははじめて.傘の表面は脱落性の円錐突起に密に被われ,成熟したものではしばしば中盤のみにトサカ状の突起を残す. |