今年の夏は非常に暑く、真夏日が熊谷で85日もあり、9月に入ってからもこの状態が続きました。秋分の日に雨が降りましたが、川越周辺の平地では、ほぼ発生しませんでした。
私達は、軽井沢から標高1000m道路を走りながらキノコを観察しました。途中、武藤氏がタマゴタケを見つけたので、写真を撮りに行きました。私はセイヨウタマゴタケだと思ったのですが、鑑定会では?がつきました。次に笹の下の斜面にオオイチョウタケがありました。埼玉県内なら絶滅危惧種になるのにかなり発生していました。またそこには、柄の下に玉が付いているタマチョレイタケも発生していました。これは、科の基準種になる可能もあったのですが、タコウキン科に問題があるので今関先生が保留したとのこと。
家で伸長させたタマゴタケ オオイチョウタケ タマチョレイタケ 撮影 3枚とも大久保 彦
嬬恋高原研修センターに15時に着いたのですが、福島氏がすでにキノコの鑑定をしていました。18:00〜20:30時過ぎまで夕食、宴会。その宴会で自己紹介とキノコに対する思いを述べ合いました。
翌日、朝食後、福島氏と西田氏が鑑定会の講評を行い、集合写真後解散しました。
嬬恋センターからの帰り、鹿沢スキー場付近を少し登るとオオツガタケとアイシメジ、ツノシメジがありました。また、その周辺には熊の糞もありましたので驚きました。
今年の宿泊研修会は、まじかになって宿泊場所がかわりご迷惑をかけました。
以上 大久保
(嬬恋観察会、雑感)
今秋最初の観察会は、はじめ八ヶ岳山麓を予定していたが、宿舎の都合により、数年継続している嬬恋の地に変更になった。記録的な猛暑が9月に入っても続き、天地ともにカラカラに乾ききって、関東周辺の雑木林では、一時きのこの姿がまったく見られず、この分では、観察会も寂しいことになるかと大いに危ぶまれた。しかし、観察日の直前になって、一転、急に涼気の日々が訪れ、また前日には台風が襲来、大雨が降った。幸い集合日当日は朝方から回復に向かい、絶好の秋日和となった。
私はいつもの通り軽井沢から浅間越えの道を辿って、道々きのこを観察しながら宿舎に向かった。途中車を止めて、とある森に入ろうとした時、思いがけず、中から猪が1頭飛び出してきた。まだ成獣になりきらない、ごく若い猪だった。鉢合わせの態だったが、いつものように驚かせないように、距離を保ったまま、しばらくじっと動かずにいると、シシも興奮を抑えて立ちどまったままでいた。そのまま正面からじっと目を合わせていると、しきりに細く短い尻尾を、子犬のようにくるくる振り回している。さてどうしたものかと思案しているかのようである。遂に私の方が動いて、腰に挿したカメラを取り上げて顔の前に構えた。すかさず、ピントを合わせようとしたところ、さすがにそれ以上は、彼も待ってくれなかった。やにわに頭を低くして凄い勢いで私の横を走り抜けると、森の奥へあっという間に逃げ去った。後を追いながら、とにかく1回シャッターを切ったが、勿論残されたのはピンボケ写真だった。
イノシシ 熊注意の看板 撮影 西田 誠之
宿舎の近くには、また、月の輪熊が出没中とのことで、バラギ湖1周の道も、危険とのことで、途中から進入禁止になっていた。この路では、昨年も日本カモシカに出会っている。ただでさえ住地を狭められている彼らのこと、その上、今年の異常な猛暑の所為で、生きる為には、里にでもどこへでも出没せざるを得ないのだろう。
そんなハプニングもあったが、肝心のきのこの収穫はというと、、、嬬恋周辺は、いつから出たのか、案外、きのこが豊富であった。あまり期待していなかっただけに、これは嬉しい誤算だった。参加の会員の殆どが、多くの種を採取出来たようで、にこにこ顔で、宿舎に入ってこられた。
私は本来受付で迎えなければならない立場だったが、早々とまた次々に、大量のきのこが運び込まれるので、その仕分けの対応に追われてしまった。受付での部屋割り、集金等の対応は、申し訳ないことに、松村氏、藤野氏、大久保氏、武藤氏等が引き受けてくれたので、すっかりお任せして、きのこの対応に専念させてもらった。
宿舎の東海大学研修センターは、ありがたいことに、いつも1階の広い1室を、きのこの鑑定の為に、充てて下さる。それ故、採集種を広々と並べたまま、翌日まで、じっくり観察することが出来る。前回の那須観察会では、旅館のスペースにゆとりがなく、やむなく狭い廊下にきのこを並べての鑑定となっただけに、その有難みがひとしお感じられた。
採取された大量のきのこを、科、属ごとに分類し机上に押し並べてゆくと、たちまち、部屋一杯になった。福島会長が、一つ一つ手にとって、鑑定していかれる。やはり高原帯での採集種なので、例によって、「良く似て非なる、不明種」が多く混じっていた。
以下観察種から印象深かった種を挙げてみる。
タマチョレイタケ
タマチョレイタケ 撮影 大久保 彦
大久保さんが採取して来られたもので、見事な漏斗形の傘と黒い偽菌核を有する大物だった。
博物館行きの標本と判断されて、展示品と区別して保管された。前回の那須観察会で、私も小さなタマチョレイタケを採取したが、今会のものは比較にならないくらい立派なものだった。
来年2月には、本種の研究者である早乙女さんの講演が予定されているだけに、一層興味深かった。
ウスムラサキシメジとウスバムラサキシメジ(青木仮称)
ウスムラサキシメジ 撮影 西田 誠之
「ムラサキシメジがこんなに沢山採れた!?」「ムラサキシメジでしょうか?」ビニール袋にどっさり入ったきのこ、、、期待しながらも、どこか心配げな様子で、紫色のきのこが大量に持ち込まれた。紫色が魅力的で、ヒダが密なきのこ、、しかし、いずれもムラサキシメジではなく、似て非なる別種だった。一つは、近年中毒事例が多発して広く知られるようになったウスムラサキシメジ、もう一つは、青木図鑑にあるウスバムラサキシメジだった。
ウスムラサキシメジについては、すでに2006年度の本観察会の報告でホームページに、また会報でも写真付で解説したので、ご覧頂きたい。私も今回その群生を見てきたが、ムラサキシメジより早めに(9月初め頃から)発生する。「おや、もうムラサキシメジが出ている??」と思ったら、本種であることを疑った方がよい。成菌では、傘の色もかなり白っぽくなり、柄もムラサキシメジのように太く逞しくはなくすぐにグサグサに廃れて頼りなくなって根元も曲がることが多い。しかし、幼菌の時は紫色が鮮やかで、ムラサキシメジと間違えても無理からぬ程よく似ている。何と言ってその匂いに特徴がある。臭いと書く方が適切で、むっとする程強烈で不快感がある。到底食欲を誘うものではない。この日ビニール袋一杯に持ちこまれたものも、一寸覗き込むと顔を背けてしまう程の、異様な臭いが充満していた。ムラサキシメジにも柴くさい匂いがあるが、かなり異なる臭いである。
一方ウスバムラサキシメジは、姿形がいかにもムラサキシメジとは異にしている。何より柄が細く中空で、ムラサキシメジのように太くない。傘は綺麗な紫色で良く目立つが、その大きさに比して薄く、周囲は波打っていることが多い。本種もごく普通に発生していると思われるが、まだ正式な学名もない。(北陸のきのこ図鑑に掲載されているムラサキカヤタケ(仮称)と同種であろうか?)
いずれにしても、このような珍しくもない種が、いまだに正式な名前もないまま放置されているのが日本のきのこの現状である。
クリイロカラカサタケ
クリイロカラカサタケ 撮影 河野 茂樹
キツネノカラカサ属のきのこが複数観察された。
ハラタケ科にあって、カラカサタケ属と同じく胞子紋の色が白色なので、属までは辿り着くがその先が肉眼では見分けが難しいものが多い。今回も不明種がいくつかあったが、私が採取した1種は、クリイロカラカサタケであった。本種からは、タマゴテングタケと同様の猛毒成分が検出されている。本属には、ドクキツネノカラカサ等、小菌ながら猛毒の種が多くあり、わが国では未だ未発見の猛毒種が数多く発生している可能性がある。
ヤマドリタケ
ヤマドリタケ 撮影 河野 茂樹
普段見慣れているヤマドリタケモドキではなく、今回は本物が採集された。本物のヤマドリタケ、すなわち欧州人が美味なきのことしてもっとも好む、ボルチーノ(伊)=シュタインピルツ(独)=セップ(仏)のことである。かって日本では見られないとされていたが、近年では、北海道や、本州の亜高山帯でかなりの頻度で発生することが判明している。
今回も何気なく並べられた採集品の中に2個体混じっているのを、福島会長がいち早く鑑定された。やや傷ついた幼菌だったが、傘も柄もいかにもきのこらしい良い形をしている。
実は私も大きな成菌に遭遇したのだったが、いずれも馬腐されて見るに耐えない状態であった。しかし驚いたことに、その後、成熟した成菌が2個体持ち込まれ、その他の雑菌扱い!の展示机の上に、ポイと置かれてあった。柄の伸びた、見事なBoletus edulisだった。後に久保さんが宿舎のすぐ近所で採取してきたものと判った。本日の採集品の中でも屈指の美味なきのこということで注目を集めたが、採集した久保さんは無欲で、「欲しいもんにくれてやるよ」とのことであった。どこまでも親切な久保さんは、翌朝には採取した現場へ「食べることに熱心な数名」を案内して、もう一度探しに行かれたが、それ以上は見つからなかったとのこと。
久保さんのお許しもあってか、当の2個体は、鑑定後の翌朝には、すでに行方知れずになっていた。後に食した方から、私宛に「とてもとても、美味しかった」との電話があった。お礼は久保さんに言って貰わなければならないのだが、、、。
セイヨウタマゴタケ
持ち帰って伸長させたタマゴタケ 撮影 大久保 彦
最近出版された「新潟県のきのこ」図鑑(新潟きのこ同好会著、宮内信之助監修)に、セイヨウタマゴタケが紹介されている。欧州では帝王のきのこAmanita caesareaと呼ばれているきのこで、タマゴタケよりさらに美味で価値が高いとされている。
同書によるとタマゴタケとの違いは、
大型で、傘は単純な山形、周辺の条線は短い、柄が太くだんだら模様がない、等の特徴があるとのこと。その他、傘の頂点の突起がない、ツボは長く大袋状等。
今回採集されたタマゴタケの中に、それらしい種が2個体(成菌、幼菌)混じっていた。
柄が太く、だんだら模様が乏しく、傘に突起が無い種だった。?付での同定となったが、かなり特徴が近似していた。幼菌を持ち帰った大久保さんの報告では、その後柄が伸びた姿が「新潟県のきのこ」図鑑に掲載されている写真のものと瓜二つの姿だったとのことである。
私もかって乗鞍高原で、柄を両掌で支えなければ持てない程巨大なタマゴタケを採取して一驚した経験があるが、今、当時のピンボケ写真を見るとどうやらそれは本種だった可能性が大である。
その他
今回採取されたイグチの中では、ゴヨウイグチとチチアワタケが多く、ハナイグチは遅れているのか、例年に比して少なかった。
不明種の中では、大型のザラミノシメジ属が目立った。
クロサカズキシメジの近縁種と思われる不明種は、ウラジロモミの樹下に群生していたもので、特徴のある色、形でありながら、やはり記載が無い不明種だった。
クロサカズキシメジ近縁種 撮影 西田 誠之
今回の観察会では、秋本番を迎えることでもあり、食菌の話題が多かった。「食べられるきのこ以外は興味がない」という新人会員さんの発言もあって、ドキッとさせられた。
今回も福島会長が要注意の毒種について懇切丁寧に解説されたが、野生のきのこを食べようと言うのは本来かなりのリスクを負う行為であることは言を待たない。市販の図鑑には、従来「食菌」とされたきのこが、今でもそのまま何ら訂正されることなく掲載されている。しかし最近の研究では多くの種から毒成分が検出されている。
今回の観察種の中にも、ドクツルタケやタマゴタケモドキのような致命的な猛毒種があり、また従来食菌とされていたスギヒラタケ、オシロイシメジ、ヌメリイグチ、チチアワタケ等は、もはや食べることは止めなければならない種といっていい。
食菌に興味がある人程、多くの種を研究しなければならないし、またそうして欲しいと願うものである。
(西田 誠之 記)
確 認 種
(ハラタケ類)
ヒラタケ科:ウスヒラタケ、ヒラタケ属
ヌメリガサ科:アカヤマタケ、アキヤマタケ
キシメジ科:アカアザタケ、オオイチョウタケ、オオキツネタケ、カヤタケ、サクラタケ、
ハタケシメジ、スギヒラタケ、ウスムラサキシメジ、アイシメジ、アオイヌシメジ、ミネシメジ、
オオキツネタケ ウスムラサキシメジ アオイヌシメジ 撮影 河野 茂樹
オシロイシメジ、ツノシメジ、ナラタケ、モリノカレバタケ、ワサビカレバタケ、
ムラサキカヤタケ仮(ウスバムラサキシメジ青木)、クロサカズキシメジ属、ナラタケ属
オシロイシメジ 撮影 河野茂樹 ツノシメジ 撮影 大久保彦 クロサカズキシメジ属 撮影 西田誠之
テングタケタケ科:イボテングタケ、ベニテングタケ、ツルタケ、カバイロテングタケ、タマゴタケ、
ミヤマタマゴタケ、タマシロオニタケ、タマゴタケモドキ、セイヨウタマゴタケ?、
コタマゴテングタケ、ドクツルタケ属
タマゴタケモドキ コタマゴテングタケ 撮影 西田 誠之
ハラタケ科:アカキツネガサ、ウスキモリノカサ、コガネタケ、クリイロカラカサタケ、
シワカラカサタケ、チシオタケ、ワタカラカサタケ、ザラエノハラタケ属、ハラタケ属
ワタカラカサタケ 撮影 西田 誠之
ヒトヨタケ科:ヒトヨタケ
ヒトヨタケ 撮影 河野 茂樹
モエギタケ科:アカツムタケ、サケバタケ、キサケバタケ、スギタケ属
フウセンタケ科:アカヒダササタケ、オオツガタケ、ツバフウセンタケ、チャツムタケ属、
アセタケ属(3種)
オオツガタケ 撮影 大久保 彦 ツバフウセンタケ 撮影 河野 茂樹 アカヒダササタケ 撮影 西田 誠之
イッポンシメジ科:クサウラベニタケ、イッポンシメジ属
ヒダハタケ科:ヒダハタケ、ヒロハアンズタケ
オウギタケ科:オウギタケ
イグチ科:アミハナイグチ、アミタケ、イロガワリ、シロヌメリイグチ、ヌメリイグチ、
ヌメリニガイグチ、ベニハナイグチ、カラマツベニハナイグチ、ゴヨウイグチ、チチアワタケ、
ニセアシベニイグチ、アシベニイグチ、ヤマドリタケ、ハナイグチ、ハンノキイグチ、
コショウイグチ
カラマツベニハナイグチ アミハナイグチ ハナイグチ 撮影3枚 河野 茂樹
ヌメリニガイグチ 撮影 河野 茂樹 アシベニイグチ 撮影 西田 誠之
ベニタケ科:アカハツ、アカモミタケ、シロハツ、クロハツ、イロガワリベニタケ、チチタケ、
カラマツチチタケ、カラハツタケ、キチチタケ、チョウジチチタケ、ハツタケ、
カバイロハツ(青木)
(ヒダナシタケ類)
ハナビラタケ科:ハナビラタケ
タコウキン科:キアシグロタケ、アシグロタケ、オシロイタケ、カイメンタケ、カンバタケ、
シックイタケ、タマチョウレイタケ、チャカイガラタケ、ヤケイロタケ、ホウネンタケ、
ホウロクタケ、オシロイタケ属、シロカイメンタケ属
タバコウロコタケ科:サジタケ
(腹菌類)
ホコリタケ科:キホコリタケ、ホコリタケ、エリマキツチグリ
ホコリタケ 撮影 河野 茂樹 エリマキツチグリ 撮影 西田 誠之
(子嚢菌類)
ノボリリュウタケ科:ノボリリュウタケ
以上103種
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