■きのこ講演会 開催日: 2011年2月6日(日) 開催場所: 上尾市コミュニティーセンター 講演: 早乙女 梢 参加者: 21名、会員外2名 担当: 事務局、上原 貞美 報告: 宮井 正彦 写真撮影: 上原 貞美 |
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◎講師:早乙女 梢氏 独立行政法人 国立科学博物館 植物研究部及び 神奈川県立生命の星・地球博物館 在外研究員 早乙女(そおとめ)氏は、上尾市のご出身で、茨城大学、筑波大学大学院博士課程を経て、現職に就かれた若手の研究者。日本の多孔菌の研究者として大いに期待されたホープで、我が埼玉の誇りでもある。ご多忙にも拘わらず、首題テーマを中心に、約3時間半の講演を戴いた。 講演内容は、最先端の研究内容が多く、小生の能力では、多々咀嚼困難で、稚拙な報告になったことを、お許し頂きたい。 〇多孔菌類の分類について サルノコシカケ類は、一般的に硬質菌の通称で子実層托に管孔を多くもつ多孔菌を指す。そのサルノコシカケ類+軟質で小型で多孔を持つものを含めて多孔菌類と呼ばれる。(背着性の子実層托が滑らか、皺程度のコウヤクタケ等を仲間に含めるか・含めないかは、曖昧になっている。)これらの多くは、強力な木材腐朽菌(白色腐朽菌:リグニン、セルロース、ヘミセルロースを分解、分解後、材は白色化。褐色腐朽菌:リグニンは不可、セルロース、ヘミセルロースを分解、分解後、材は褐色化。)である。 ・ 樹木病害・建築材の腐朽原因である一方、 ・ 食用、薬用利用。環境浄化、バイオマス(飼料、代替燃料利用)に期待されている菌類でもある。 @
従来の多孔菌類の分類体系 (Ryvarden&Gilbertsenによる分類体系。1980年) ・
肉眼的形態による分類 柄 有無、位置(側生、偏性、中心性)、柄の基部の殻皮の程度 傘の肉質 革質、傘肉の色、殻皮の有無 子実層托 孔状、ヒダ状、迷路状 ・
顕微鏡的形態による分類 菌糸型(1-3菌糸型 (生殖菌糸、骨格菌糸、結合菌糸)) ヨウ素反応、胞子の形態・大きさ、シスチジアの形態・有無 ・
腐朽様式による分類 白色腐朽菌か、褐色腐朽菌か 基質が不明の場合、試薬(アルファー・ナフトール、チロシロール)に対する反応の有無によって白色腐朽菌か褐色腐朽菌か判定する方法もある。 分類体系に添って、以下を例に解説された。 シロアミタケ属 シロアミタケvsカワラタケ シュタケ属 ヒイロタケvsシュタケ オシロイタケ属(白色腐朽菌)vsアオゾメタケ属(褐色腐朽菌) これらの基準による分類では、境界があいまいで判定が困難。又、試薬による腐朽様式の判定も、新鮮な試料でないと反応が弱く、古い個体では判定できないなど、多々問題を包含している。 A
分子系統解析による分類体系 遺伝的な分子情報(DNAの塩基配列の情報)を比較して系統関係を明らかにして、分類する手法で、従来の比較形態学・比較生理学に基づいた分類とは異なった知見も得られている。 ハラタケ綱は2006年現在、17目に系統分化しているとされている。サルノコシカケ目(Polyoorales 2-3菌糸型)は、その1目/17目であるが、従来、多孔菌類とされている種はこの他、ハラタケ綱における単系統群の9目/17目に分散し、多系統群をなしている。 〇タマチョレイタケの種レベル同定の研究紹介 タマチョレイタケ属(Polyporus)は 有柄、二菌糸型、胞子は平滑・円筒形で、白色腐朽菌である。世界で32種(日本18種)確認されている。タマチョレイタケ(P.tuberaster)とアミヒラタケ(P.squamosus)は極めて似ており(傘上の鱗片、大型の子実体、大きい孔口、大型の担子胞子等)、混同されてきた。現に山渓の「日本のきのこ」でも混同されている。演者は、全国のキノコ関係者の協力を得て、この種レベルの分類同定を行った。その経緯を詳しく解説された。 @
分子系統解析(核LSU) 供試サンプルは、近隣結合系統樹でみると、A,B,Cの3グループに分けられた。 A
交配実験による種の同定 各グループを組合せ培養交配を行い、クランプ結合の有無を確認した。交配できれば理論上同種となる。AとBの組合せ×。AとCの組合せ×。BとCの組合せ△半端であるが交配がみられた。(実験的には交配しても、自然界交配?) B
形態的特徴分析 採集場所(発生環境) A:冷温帯〜温帯に分布 B:亜寒帯〜温帯に分布 C:温帯〜亜熱帯に分布 他形態等の特徴 A:広葉樹上、 傘大きく厚い、偏心(側生)、腎臓〜半円形 B:地上生(菌核形成)または広葉樹の樹上、中心生、円〜半円 C:広葉樹の樹上、中心〜扇生、円〜扇形 その他:鱗片、管孔の深さ、孔口、胞子サイズを比較。 C
結果 上記の試験の結果とヨーロッパのものとの比較の結果 A:アミヒラタケと同定。 B:タマチョレイタケと同定。 C:タマチョレイタケに限りなく近縁な別種または種分化しつつある同種と同定。 今後、タマチョレイタケ及び近隣の種の同定での混乱を回避する大きな礎になることは必至であろう。また、新品種としての同定の可能性も高い。 本講演は以上であったが、時間的余裕もあり、演者が博士号を取得された論文紹介も戴いた。 〇複合種の分類「日本産Polyporus pseudobetulinus」について 北海道の亜寒帯域のバッコウヤナギに発生するテーマのキノコには、生殖菌糸にク ランプを有するものと、欠くものがあり、複数種が含まれている可能性から、世界に 分布するPolyporus属の種と対比しつつ、種レベルの分類同定をおこなった。 ・分子系統学解析(核LSU,ITS)によるDNAの種のポジションにより AとB2つのグループを確認した。 ・形態的特徴 A:樹上に単生、クランプ無し、胞子小さく円〜舟形、北アメリカ、ユーラシア大 陸、日本北部に分布。 B:樹上に重生、クランプ有り、胞子大きく舟形、チベット、日本北部の亜寒帯に 分布 上記結果から A:P.pseudobetulinusと同定した。 B:P.subvariusと同定した。 同一扱いされていたものが、実は2種であったこと、さらには、1種は日本での新 発見種(P.subvarius)となり、世界的分布でもチベットに限定された種であること が解明された論文となった。 博士号のご取得、心よりお祝い申し上げたい。 以上 |