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保坂氏は日本、世界を股にかけて野外調査を行い、フィールドワークを通しての菌類の生物地理学的な関係を研究している。
全世界でフィールドワークを行っており、空白な大陸は南極大陸だけとのことである。
一方で、菌類の種の識別をするためのDNAバーコードとしてリボソームDNAの非コード領域であるITS(Internal Transcribed Spacer:転写領域内部の非コード部分)と呼ばれる部位が菌類の種の判別に最も適していることを利用して研究を進めている。
今後はこの領域が、世界中の研究者により菌類の種内・種間の共通同定ツールとして活用されるであろう。若手にして菌界の第一人者である。
ここに、今回の講演会の概要を報告する。小生の理解が及ばぬ点が多々あり、拙文の報告になったことは、お許し頂きたい。
○きのこ(菌類)の世界
菌類の既知種10万種 未知種含めて植物30万種の5倍の150万種と推定されてきたが、これは過少推定であるかも知れない。
近年のメタゲノム解析によれば、500万〜900万種以上とも推定される。
現在、年間1,000〜2,000種の新種追加が報告されている。
日本の既知のキノコは約2,000種。世界のキノコは約20,000種である。
解析技術の進歩によって、未知を含めると10倍の約20万種と推定される。
例えば普通種のエリマキツチグリ(Geastrum triplex)もDNA解析すると9種に分かれていた。
しかも系統がばらついている。日本のキノコも植物の種数以上に存在すると考えられ、6,000種以上と推定される。
○大人数で解明するキノコ多様性プロジェクト
−こんなにいるぞ、植物園のキノコ達−
同氏がフィールドワークを通じて痛感されていたのは、キノコは殆どが菌糸、胞子の状態で人間の目に見えるのは、ほんの僅かな時間しかない。
一人の目には限界がある。その為には、「身近な場所」で、「沢山の目」で「定時的(1週間間隔)」に「継続(数年)」して観察調査し、「写真」に残す、「乾燥標本」を作る、そして全てから「DNAを抽出」する。
同氏は身近な場所として勤務地「筑波実験植物園」をベースグラウンドに選んだ。
樹種(6,000種)が豊かで植物多様性に富んだ場所はキノコの多様性に富む。
年間1,000点以上の標本作りを目標に協力者を募集しての作業は、成果を上げている。
今後も調査を継続するとのことである。図表によれば、約1,200点/年間の標本を採集し、園内初発見の種(スッポンタケなど)も多々見つけたそうだが、日本初のキノコ2点(トゲミノダイダイサラタケ、フタツミシロヒナノチャワンタケ)、世界初の新種(トリュフの仲間、未だ名前はついていない。)の発見があった。
未知種の多いキノコの世界において、沢山の目による定点・定時・継続観察は非常に大切且つ有効であるということの立証である。
また、種を確定するためには沢山の同種サンプルが必要でこうした調査、標本は財産となる。
○乾燥標本のDNA解析について
同氏は、日本、海外の各地におけるキノコの標本庫の標本及びタイプ標本のDNA解析にも取り組まれている。
上記のDNAバーコーディングマーカーである核ITS領域の塩基配列の解析であるが、経時的、湿度・温度等の保存環境、保存用燻蒸剤等の薬剤による影響で新鮮な状態では長い鎖状であるDNAが、数百塩基対程度以下にまで断片化してしまう。
2003年以前の乾燥標本は特に劣化・断片化が進んで解析が難しくなっている。
最大の要因は使用燻煙剤の影響によるとのことであるが経時的劣化もある。
細かく断片化したものをパズルのように?ぎ合わせて解析するのは至難の業であり、大変な作業なのであろう。
今後の標本保存には、新鮮時のDNA保存が極めて重要になる。
○世界のきのこ−おまけ編
・世界で一番個体の大きいきのこは何だ。
・世界で一番重くて、長生きするきのこは何だ。
・食用で一番大きいきのこは何だ。
・南極のきのこは。
・ヒメツチグリ属で最も大きいサイズはどれ程か。
・他オモシロきのこクイズ多数。答えは参加者だけが知っている。
今後は、是非奮って参加頂きたい。
保坂 健太郎氏からのご案内
・2月17日(日)夜23:30 NHK「サイエンスZERO」
に出演されます。光るきのこについて語るそうです。
再放送は翌土曜日の昼12:30〜の予定。是非ご覧ください。
・出版物「きのこの不思議」誠文堂新光社 \2,310 発売中
子供の科学サイエンスブックとなっていますが、大人でも
読みごたえがあります。クイズの答えも解るかも…。
・第4回キノコ展 10/19〜10/27 筑波実験植物園
今年も開催されます。ご期待下さい。
・その他、キノコ観察会の催し、ボランティア参加については
国立科学博物館のHPをご覧ください。
以上
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