① 2016年に出会った県内のキノコ(絶滅危惧種等) 大久保 彦
川越市西部の丘陵地を中心に、今年観察した絶滅危惧種、準絶滅危惧種も含めて、26種類の発表がありました。
日和田山でのコウタケ(広義・NT準絶滅危惧種)、ニワタケ、東秩父村でのムレオオフウセンタケNT、キクバナ
イグチ(新コガネキクバナイグチ)NT、バカマツタケ、アカジコウなどは県内ではお目にかかれないと思っていた
ので、ちょっと驚きました。
以前、小川在住の方から「戦前は小川町の付近で松茸が採れた」とか、私(藤野)の父からは、「戦前、今の若葉駅
一帯が平地林で覆われていた頃、ホンシメジやシャカシメジが採れたので、小使い稼ぎに町に売りに行った」とか、
そんな話を聞かされたことを思い出しました。
他にも、ミミブサタケ、ジャガイモタケ、キヌガサタケなど貴重な発表がありました。
大久保彦氏の発表種一覧
コウタケ(広義)(日和田山NT―準絶滅危惧種)、ムレオオフウセンタケ(東秩父NT)
キクバナイグチ(新コガネキクバナイグチ)(東秩父NT)
ニワタケ(日和田山と寄居、竹藪NT)、ミミブサタケ(美の山NT)
シャカシメジ(東秩父、川越 、V U絶滅危惧Ⅱ)、キヌガサタケ(北本NT)
ジャガイモタケ(飯能 U絶滅危惧Ⅱ)、
シワチャヤマイグチ(横瀬と美の山、過去は絶滅危惧種)
バカマツタケ(東秩父)、ヌメリコウジタケ(日和田山)
アカジコウ(東秩父)、セイタカイグチとサザナミイグチ、ホオベニシロアシイグチ
ムラサキフウセンタケ、クリイロイグチとヒイロウラベニイロガワリ、
オオウラベニイロガワリとウラベニイロガワリ、イロガワリキヒダタケ(川越)
セミノハリセンボンタケ(北本)、アカヒダワカフサタケ(川越)
ヤナギマツタケ(川越)、サワフタギタケ(川越)、スミゾメヤマイグチ(川越)
② 足尾山系のきのこ 村田紀彦
発表者が良く訪れているという足尾山地のきのこが少数紹介されました。
大久保さんの発表種との比較にも言及されました。
③ 2016年の天候推移ときのこの発生状況 富田 稔
富田さんのライフワークである「天候ときのこの発生状況」が、栃木県佐野市の気象データと関連づけて発表され
ました。7月から11月までの、計7回の観察記録でした。
「今年は、7回しか観察できなかった」とこぼしていましたが、私(藤野)は、この1年、担当した観察会の時以外、
気象の記録を一度もしていませんでした。稲作の関係で、JAより資料(グラフ)を貰うのですが、それによると
8月の気温、降水量、日照時間が特に重要とのこと。今年は8月の条件は良かったのですが、9月は天候が悪く
稲刈りがなかなか進みませんでした。しかし、きのこには、良い条件だったのかもしれません。
④ 8分類群と今年のきのこ 大舘一夫
最初に、今年の秋ヶ瀬観察会において一般の参加者から、きのこの分類方法、展示の際の並べ方等について質問が
あったことが紹介されました。
それに関連して、現在は、旧来の5分類群(チャワンタケ類、キクラゲ類、腹菌類、ヒダナシタケ類、ハラタケ類)に
代えて、8分類群(チャワンタケ類、キクラゲ類、スッポンタケ類、サルノコシカケ類、アンズタケ類、ハラタケ類)
を採用していること、および、その8分類群も、肉眼的・顕微鏡的特徴や植生・化石等による旧分類(人為分類)を
基にしている点は従来と同じだが、個々のきのこの表示(目、科、種名等)については、新分類(分子系統分類)の
名称を用いていること等が説明されました。
そして、その8分類群に基づいて、顕微鏡映像や生態映像を映写しながら、今年、観察したキノコ27種を、詳細に
発表されました。
大舘一夫氏の発表種一覧
ハラタケ類 ヤマジノカレバタケ、シロホウライタケ、マントカラカサタケ、
コガネキヌカラカサタケ、ナヨタケモドキ、キイロアセタケ、
ネナガノヒメクリタケ(ウッドチップ上)、カバイロトマヤタケ、
イグチ類 キニガイグチ、チャニガイグチ、コビチャニガイグチ、フミトニガイグチ、
クリイロニガイグチ、キクバナイグチ、マルミノアヤメイグチ、
ベニタケ類 キツネハツ、ウコンハツ、トラシマチチタケ、
アンズタケ類 サヤナギナタタケ、ハイイロカレエダタケ、サガリハリタケ、
サルノコシカケ類 クシノハシワタケ、アイカワタケ、ツリバリサルノコシカケ
スッポンタケ類 ヨツデタケ、
キクラゲ類 シロキクラゲ
チャワンタケ類 ヒメアカコブタケ
⑤ 初冬に大きな菌輪を描いたきのこ 西田誠之
当会の観察会にもよく参加される稗島英憲氏より、今年11月の季節外れの降雪の後に、川越市内の旧家の敷地内
の林地に白いきのこが群生して大きな菌輪を描いたとの貴重な情報が寄せられました。その顚末が、稗島氏撮影
の写真を映写しながら紹介されました。
地主の方はもとより近隣でもちょっとした騒ぎとなり稗島氏が呼ばれて見に行ったが、誰もそのきのこの正体が
判らない、それで稗島氏から発表者へ問い合わせがありました。
発表者は現場へ行けなかったが、幸い、稗島氏撮影の写真が精確だったので、シロノハイイロシメジである
可能性が高いことを伝えたところ、関係者もネットその他で調べてそれに間違いない、ということになりました。
しかし、その後、困ったことに、常の事ながら食べたいという人が現れたとのこと。有毒の可能性もある菌である
ことを告げて、稗島氏から警告して貰ったことは言うまでもありません。(食したことのある大舘一夫氏によれば、
味は良かったが、その後幻覚のような症状を来たしたとのことで、やはり食べない方が良い、とのことでした。)
当のきのこは、どうやら、シロノハイイロシメジで正解だったようですが、日本産の本種は、北米等に産する
ものとは別種の可能性もあるようです。いずれにしても、現場は、本種の貴重なシロであることは間違いなく、
次の発生時には、是非、観に行きたいというのが皆さんの評価でした。
⑥
タバコウロコタケ目のきのこの発表 西田誠之
注目されることの少ないタバコウロコタケ目のきのこの新分類の内容、タバコウロコタケ科8属41種、ヒナノ
ヒガサ科1属1種、および、所属科未確定の5属10種の一覧表が配布され、各科、属の特徴が解説されました。
その中から、以下の25種の映像が映写され、その特徴が説明されました。
タバコウロコタケ科の菌の特徴
菌糸が褐色である。 クランプを欠く(ウズタケのみ発見例あり)。
褐色で厚膜の剛毛体を形成する(例外あり)。
リグニン分解菌で腐朽材は白腐れ。殻皮は未確認。
胞子は、非アミロイド。
西田氏の発表種一覧
タバコウロコタケ科
タバコウロコタケ属(Hymenochaete):
マツノタバコウロコタケ、アカウロコタケ、エビウロコタケ、ヒメウロコタケ、
ミヤベオオウロコタケ、タバコウロコタケ?、ワヒダタケ、
コガネウスバタケ属(Hydonochaete):コガネウスバタケ、
カワウソタケ属(Inonotus):カバノアナタケ、*サジタケ、*アズマタケ、
カワウソタケ、ダイダイタケ、ラッコタケ、
キコブタケ属(Phellinus):
ネンドタケ、ネンドタケモドキ、ツリバリサルノコシカケ、 チャアナタケ、
オオサビサルノコシカケ、
マツノカタワタケ属(Porodaedalea):
ウツギサルノコシカケ、カラマツカタワタケ、
ニセカイメンタケ属(Onnia):
ツヤナシマンネンタケ属(Pyrrhoderma):=タマチョレイタケ科(多孔菌科)から移動
ツヤナシマンネンタケ、
所属不明:
キヌハダタケ(Cyclomyces?)、
ヒナノヒガサ科
ヒナノヒガサ属(Rickenella):ヒナノヒガサ、
所属科未確定種
ムラサキナギナタタケ属(Alloclavaria):ムラサキナギナタタケ、
オツネンタケ属(Coltricia):オツネンタケ、ウズタケ、ニッケイタケ、
ヒメカイメンタケ属(Coltriciella):ヒメカイメンタケ、
シロサルノコシカケ属(Oxyporus):ヒメシロカイメンタケ、
シハイタケ属(Trichaptum):
シハイタケ、 ウスバシハイタケ、 ハカワラタケ、
(□=針葉樹生、アンダライン=針葉樹、広葉樹、両生、その他=広葉樹生)
(*=属変更移動種)(斜字=DNA鑑定結果不詳)
⑦ きのこの観察発表 栗原晴夫
以下のきのこが映像とともに報告されました。
飯能での二年間に渡って発生したニオイオオタマシメジ
(コガネタケが群生していた場所に発生)
撮影日時 2015年11月7日、14日、21日、28日
2016年11月5日、12日、20日、12月3日
気になるベニタケ2種
アカネハツ、キムラサキハツ(発表者の勝手な命名とのことです)
里山で出会ったナメコ、コナラ林のマイタケ、傘の径が30センチ以上もあるオオオニテングタケ、
鉢植えに出たコガネキヌカラカサタケ
⑧ きのこ茹で比べ 栗原晴夫
以下のきのこを茹でて、どのように変化、変色したかを観察した記録が映像で紹介されました。非常にユニー
クな発表でした。
赤色のきのこ(ベニタケ等)数種、ウラベニホテイシメジ、クサウラベニタケ、
ドクツルタケ、シロタマゴテングタケ、タマゴタケ、その他アカマツ林のきのこ。
⑨ 材上生の硬質菌の展示 西田誠之
取り溜めたストックの中から保存状態の良い種が展示されました。
同定できない種や、珍しい種(ヒメシロヒヅメタケ等)もありました。
➉最後に福島会長が講評を述べて、すべての予定を終了しました。
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